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この病院は面会者のために談話室がある。自動販売機とテレビが置いてあって、窓からは明彦の家も見える。明彦がどこに座るか逡巡していると凛香が窓際の席に腰かけた。明彦は向かい合いに座る。
「河童がいるのは、あの川でしょう」
凛香は明彦が来る時に通った道の川を指さした。よく分かったな。明彦は頷いた。
「河童、本当にいるんですね。これから気を付けます」
「戸田さんにはもっと気を付けてほしい妖怪がいるんです」
「え?」
なんだろう。明彦は妖怪を信じていなかったせいで身に覚えが一つもない。
「疫病神が家に住み着いています」
凛香はそう言うと今度は明彦の家を指さした。二階建ての築十年の家。疫病神が住み着いているとしたらヤバい。
「それは困ったな。だからお母さんは癌になったのか? どうしたら追い払えるんだ?」
「私が追い払うことはできるんですが、あと一週間の入院があるので……。それまで疫病神に大人しくしてもらうためにお守りを持っていてください」
凛香は全摘出した左胸を押さえた。この人は自分もつらいと思うのに他人の心配をして偉い。
「お守り、買います。幾らですか?」
「私から言い出したのでお金は要りません。戸田さんは同じ病気だし、同じ病室なので心配なんです」
お茶をご馳走になってお守りまでもらったら悪い。後で入院に必要なものを買ってこようか。タオルとかマグカップとか。色々と考えていたら凛香がポーチからお守りを取り出した。
「これ、厄除けのお守りなんですけど、私の力を入れてあります。明彦さん、明彦さんって呼んじゃいますね。明彦さんの部屋に置いておいてください」
「僕の?」
「はい。戸田さんの家で明彦さんが一番、気が強力なので」
確かに父は母が癌だと分かったときから少し参ってしまっている。それで仕事が忙しいのだから体力も落ちているだろう。明彦は母の言う通り出前でもいいからちゃんとしたものを食べようと思った。
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