妖怪

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 三時になった。母も昼寝がしたいだろう。明日も父と来れるし今日はもう帰ろう。明彦は母に言った。 「そろそろ帰るよ。明日、お父さんと来る。持ってきてほしいものはある?」 「特にないかな。車で来るの?」 「うん、お父さんが一緒だからね。河童が見たかったんだけど」 「河童?」 「冗談、冗談、お母さん、よく寝てよく食べてよ」  明彦は目を細めてそう言ってから母の手を握った。  帰り道は川沿いを通らずに大通りに出て雑貨屋に寄ることにした。女の子が入るような店なので恥ずかしかったが凛香のお礼を買いたい。それに店内を覗くとカップルだが男もいた。  紫陽花の柄がある半透明のプラスチック製のマグカップがあった。ピンク色でとても可愛い。明彦はそのマグカップを持ってレジに行った。凛香は喜んでくれるだろうか。  家に帰るとお守りを机の上に置く。厄除けとだけ書いてあるなんの変哲もないお守りだ。これで疫病神の力が抑えられてくれればいいが。  七時になって父が帰って来た。 「ただいま。明彦。母さんの様子はどうだった?」 「あまり病院食を食べてないみたいだったよ。でもなるべく食べるって約束してくれた」  父は眉根を寄せた。 「具合が悪くて食べられないんじゃないのかい?」 「体は手術の後より楽になったって」 「そうか。まだ手術は残っているからな。体力をつけていてもらわないと」  明彦は父に疫病神の話をしようか迷っていたがやめた。どうせ信じてもらえないだろうし、父は母に言ってしまうかもしれない。 「僕たちも体力をつけよう。お父さん、今日は出前をとろうよ。お母さんにもカップラーメンはやめてって言われたんだ」  父はソファーに座ってネクタイを緩めた。明彦はスマホの出前の画面を父に見せた。 「僕はレバニラ炒めに炒飯。お父さんは何にする?」 「中華か。いいな。私は回鍋肉定食にしよう」  良かった。これで母との約束が守れる。
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