妖怪

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 川沿いのフェンス越しに紫陽花が咲いている。戸田明彦(とだあきひこ)は紫陽花を右手に見ながら道を進んだ。川沿いをずっと行けば病院に着く。病院には母が癌を患って入院している。乳癌で三日前に全摘出した。リンパ節に転移があった。だから全摘出したからといって安心できない。もちろんリンパ節の癌はこれから切除する。  明彦は高校一年生だ。中学の時に勉強を頑張ったから偏差値の高い進学校へ入学できた。母がパートで塾や家庭教師代を稼いでくれたおかげだ。母には感謝している。癌なんかに負けてほしくない。  病院まであと十分くらいだ。川は雨が続いているせいか水嵩が増している。土手の草むらの中に河童がでるぞという看板があった。河童、小さい頃は本当にいると思っていた。高校生となった今は本当にいるのなら会ってみたい。鱗で体が覆われていて頭に皿があるのだろうか。  明彦は歩を速めた。今日は土曜日で面会時間が始まると同時に母のところへ行こうと思っている。父は休日出勤で明日にならないと病院に行けない。
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