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プロローグ
昔は、ギターを弾くのが大好きだった。
音大でギター講師をしていた父とピアニストの母の影響で、生まれた時から音楽が身近にあった。母はピアノを教えたかったみたいだったけど、僕は取り分け、父に教わるギターの方にのめり込んで行った。
自由に使える時間のほとんどはギターの練習に費やしていた。新しい曲を覚えては父と母に披露して、褒めてもらっていた。
「奏汰が大きくなったら家族で演奏会をしよう!」
父がよく言っていた言葉だ。家族で演奏会を開くのが、昔からの夢だったらしい。しかし、そんな夢が叶うことは無くなってしまった。
父と母は死んだ。公演中の事故だった。父は自分先導の仕事の時、ピアニストが必要な時は必ず母を指名していた。理由は「自分が出会ったピアニストで一番素敵だから」だったらしい。流石に身内びいきだと思ったが、僕自身も舞台上でセッションする父と母の演奏が大好きだった。
妖精の森での音楽会がコンセプトのストーリー型コンサート、ギター弾きの妖精が仲間たちにのけ者にされ、独りで泣きながら演奏をしている所に、心優しいピアノ弾きの妖精が加わり悲しげだった音楽が明るい音楽に変わっていく場面。どんどん盛り上がっていく演奏に、僕を含めた観客たちも胸が踊っていた。泣いていたギター弾きの妖精は涙を忘れ笑顔でギターを掻き鳴らす。それにつられて、ピアノ弾きの妖精も体を大きく使い表現する。いよいよクライマックス、この最高のデュエットが終わりを迎える。
そんな時だった。
妖精の森を彩っていたはずのセットが倒れ、2人を下敷きにした。
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