ヒモの成長〜20年越しの初恋 その後〜

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自分は男としか付き合えないと自覚し、けれど特定の恋人を作らないまま今まで色々な男の間を彷徨っていたオレが30も半ばを過ぎたある日、20年ぶりに突然現れた初恋の相手を紆余曲折の末、ついに人生のパートナーにしようと決めた。 そしてそんな、20年越しの初恋をついに実られたオレたちはそのまま一緒に住み始めたのだけど、すぐにそいつのポンコツぶりが明らかとなる。 そいつは想像以上に、何も出来ないサイテーのくずのダメヒモだったのだ。 金なし、仕事なし、住まいなしの三重苦はまあ、この場合仕方ないとして、ヒモとしてはありえないエッチの下手さ。エッチどころかキスも超がつくほどのど下手っぷり。 だけどそれはすでに分かっていたことなのだけど、さらにそこからのダメっぷりがすごかった。そいつは人としての生活能力がゼロだったのだ。 料理はおろか、掃除洗濯はもちろん片付けすらしない。今どきどこのおぼっちゃまなの?てくらいなにもしなかった。 帰ってきては靴は脱ぎっぱなし。その他靴下洋服寝巻き、それらは全て脱いだまんまの形でそのまま放置され、食べたら食べっぱなし。ゴミも置きっぱなし。食べた食器は当然のようにテーブルに置かれ、流しにすら持っていかない。洗えとまでは言わないが、せめて自分が食べた食器くらい流しに持っていくのは人としての礼儀ではないのか? そんなそいつの態度に、オレも最初は何も言わずにいた。だって再びオレの前に来るまでに、こいつは色々なことにけじめをつけてきたのだ。それはどんなに大変で辛かったことか。だからきっとストレスも半端なかっただろうし、少し休みたい気持ちもあると思ったからだ。実際、オレの前ではにこにこ笑っていても、オレがいない時はぼうっと(くう)を見つめているときがあった。だからオレは少し、そのままそいつを休ませてあげようと思ったのだ。 だけどそれも、一週間過ぎてもそのままだったら、少しは怒ってもいいだろ?しかもこっちは仕事をしているのだ。 朝きちんと部屋を片付けて出たはずなのに、帰ってきたらリビングはペットボトルや食べ物の容器で散らかり放題。しかも寝巻きもベッドの上に脱いだまま置いてあったら、少しキレるくらいしてもいいよな? 「お前は・・・ゴミくらい捨てられないのかっ」 ゴミが散乱して散らかり放題のリビングに帰って早々、ブチ切れたオレをそいつはポカンと見上げ、『ごめんなさい』とすぐにゴミを拾って捨て始めた。けれどその捨て方に、またオレはキレる。だってゴミが全然分別されていなかったからだ。これじゃあいくらゴミ箱に捨ててあっても、後でまたオレが出して分別しなければならない。 けれどオレの剣幕におどおどするものの、そいつは一向に分別することも無くゴミを捨てていく。その姿に、もしかして、と思う。 こいつ、ゴミの分別を知らないんじゃ・・・。 そこで一旦手を止めさせ、オレはゴミについて聞いてみた。すると案の定、こいつは分別を知らなかったのだ。だけどじゃあ、今までゴミはどうしていたのだろう?こいつだって、大学進学で親元を離れているはずだ。それから15年以上、ゴミはどうやって捨てていたのか。 そう思って聞いたところ、なんと今まで他の人がやってくれたという。 実家を出てすぐは姉と同居だったため姉が、その後就職と共にした一人暮らしでは彼女が毎日通ってくれていたらしい。その後はその彼女と同棲したので、当然彼女がしていたわけで・・・。そこまで考えてオレは思い当たってしまった。もしかして、それはゴミだけの話では無いのではないのだろうか。 そこで聞いたところ、やっぱりオレの予想は正しく、今までこいつは全てのことを他の人にやってもらっていたのだ。 当然実家にいた頃は母親がやってくれていたわけで、その後も何も言わずに姉や彼女がやってくれたものだから、こいつの中ではそういうことを自分がやるという概念が初めからなかったのだ。 その事実を知ってオレは呆然とした。 じゃあ今までこいつは、しなかったんじゃなくて、しなければいけないということを知らなかったのか・・・。
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