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 梅屋敷の話はこの辺の地域ではそこそこ有名ですよ。と言っても、最近の若い子たちには馴染みがないのでしょうが。  ひい祖父さんから聞いた話です。なんでも、その屋敷はひい祖父さんの住む家の近くにあったらしいんですね。屋敷といっても、そこまで大きい訳でもない、ちょっと立派な二階建ての民家って感じだったらしいんですが、広い庭に梅の大木が何本も生えていて、とても綺麗で、周囲からは梅屋敷って呼ばれていたんです。で、そこには老夫婦が住んでいたそうなんですが、ある時、その夫婦の元に小さな女の子がやって来たそうで。ウメちゃんって呼ばれてたんですって。二人に子供はいないし、あ、若い時に産みはしたんですけど、事故?か何かで亡くしてしまっていて。もちろん孫なんているはずなかったから、ひい祖父さんや近所の人たちは不思議に思ったんですけど、どうやら話を聞いてみると親戚から預かった子供らしくて。まあ周りも特に疑うことなく、何か事情でもあるんだろうなとか、亡くなった子供さんに似てたからもし生きてたらこんな感じだっただろうなくらいにしか思ってなかったんですけど、ほどなくして段々と二人に変化が出始めて。どんどん無愛想っていうか、怒りっぽくなっていって、挨拶もしないばかりか近付いてきた人を睨み付けたり怒鳴り散らしたりなんかして、明らかに何かがおかしくて、近所付き合いにも支障が出るレベルで……そんな調子でウメちゃんは大丈夫なのかって皆心配したんですけど、度々家の中から猫なで声のようなものも聞こえてきていたから、だからウメちゃんには優しくしてるんだなってホッとしたみたいなんですけど……    そんな最中、突然死んじゃったんですよ。その二人。    ひい祖父さんが畑で取れたキュウリやナスをお裾分けにと思って屋敷を訪ねた時に見付けたそうで。変わってしまったとはいえ長いこと近所付き合いがあったものですから、ひい祖父さんは二人を無視できなかったんですね。  家の中はあまりに凄惨な状態で、しばらく夢に出たと言っていました。まずお婆さんの方は身体中の血を全部抜かれたみたいにカラッカラに干からびていて、お爺さんの方は頭を火の掛かった鍋の中に突っ込んで死んでいたらしくて。最後に姿を見た時から三日くらいしか経っていないはずなのに、二人とも殆ど原型を留めていないほどに腐敗が進んでいて、家中がもの凄い悪臭に包まれていたみたいで。ウメちゃんに至っては死体すら見付かりませんでした。集落の皆であちこち探し回りましたが、どこを探しても足跡ひとつ見付からない。警察の力を持ってしても無理でした。忽然と姿を消してしまったんです。ウメちゃんを二人に預けた親戚が誰なのかもわからず終いでした。  その後二人の死は自然死と自殺というかたちで処理されました。家の方は何度か家族が移り住んできたりしたそうなんですが、皆ほどなくして出ていってしまい、最終的に廃屋になってしまいまったんですよね。  それから時は流れて、ひい祖父さんも他の近所の人も亡くなったり他所に移ったりして、あの屋敷の周りには誰もいなくなりました。一度気になってその屋敷まで車を走らせたことがあるのですが、集落の手前の道が立ち入り禁止になっていたので、今その屋敷がどうなっているのかはわかりません。勝手に入って何かあったら大変ですから。  でも不思議なことに、その屋敷、定期的に人前に姿を現すらしいんですよね。まあ、ただの都市伝説的なものだと思いますけど。本来屋敷がある場所と全く関係のない場所での目撃情報があるとかないとか。女子高生二人が迷いこんで行方不明になったとか……    ああ、そうだ。最後に。消えたウメちゃんのことなんですけどね。実はひい祖父さん、夫婦が死んでから一度だけ姿を見たことがあるらしいんです。山菜を取りに山へ入った時に、その子が四つん這いで斜面を駆け上がっていくのを見たと言うんです。一瞬だけひい祖父さんの方を見て、静かに、にたーっと笑って、林の中に消えていったと。その時の顔がずっとずっと脳裏に焼き付いて、死ぬまで離れなかったみたいです。  あの場所、今どうなってるんでしょうね。ウメちゃん、まだいたりしてね。      
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