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 市場でのユセフ王子を思い出せば、王子がアーディルとのことをどのように考えているのか私には分かる。 「ユセフ王子はただ御子を望んでいるわけじゃない。純粋にアーディルといたいだけだ。王子のお気持ちはきみが一番分かっているはずだろう」 「ですが、釣り合いません」 「それはユセフ王子が決めることだ。きみはどうだ。ユセフ王子にそのように言われて、どう感じた?」 アーディルは俯いたまま少し考え、「自分の身分に引け目はありますけど」と前置きしたうえで、 「……嬉しかったです」  頬を赤らめ、幸せを感じているような柔らかい表情で、微笑んだ。ああ、彼も同じ気持ちなのだな、と理解する。朝日に反射するブロンドの髪と白い肌がいつもより眩しくて、私は目を細めた。 「御心のままに」  ハレムの入口で別れの挨拶をする。明日の朝には出陣なので、私もアーディルには暫く会えなくなる。もしかしたら二度と会えない可能性もある。 「僕、ユセフ王子にも感謝していますが、カシム様にも感謝しているんです。僕が唯一、心を許せるお二人です。ご無事をお祈りしています」 「……ありがとう」 私はアーディルがいつものブルーのロングベストではなく、爽やかなグリーンのロングベストを着ていることに、今気付いた。肩には純白のストールが掛かっている。 「いい色だな」 「ユセフ王子が仕立ててくださいました」 「よく似合う」  ユセフ王子とアーディルはお互いを想う時、同じ顔をして笑う。瞳を輝かせて眉を緩め、はにかみながら幸せそうに。あれが愛するということなのだろう。肉体的ではなく、精神的な番。私には伴侶もいなければ想い人もいないが、今後人生を共にしたいと思う者が現れて、あんな風に自分に笑顔を向けられたら、どんなに幸せだろうと思う。
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