プロローグ

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「三ヵ月前か。つい最近じゃないか。それに若い。……気の毒に」  ハレムのオメガたちは普段は抑制剤を飲んで発情を抑えて過ごしているが、発情期と夜伽が重なった場合、薬は飲まずに本能のまま召し上げられる。そのほうが王様の満足度も高く、優秀な御子が産まれる確率が上がるからだ。中庭で舞っている青年は、ちょうど発情期に夜伽に呼ばれたのだろう。順調にいけば側妻から妃に昇格していただろうに、今では忘れられた哀れな側妻だと、後ろ指を指されている。 「……美しいな」  確かにしなやかに舞う青年は美しかった。空から降りそそぐ太陽の光が白い肌をまばゆくさせ、絹のような髪は天使の羽を思わせる。ユセフ王子はオメガの青年にすっかり見惚れていた。 「決めた、あの者を離宮に連れて行こう」 「しかし、王様の側妻です。王子には王子の側妻をお選びになったほうがよろしいかと」 「私はあの者がいいのだ。ハレムの全権を持つ母上の許可さえ下りればかまわん」  原則、王様が抱えている側妻はみな「王の女」であり、例え王子でも王の女に手を出すことは許されない。案の定、母后様も声を荒げて反対したが、ユセフ王子の意志が固いのと、中庭で踊り続けるオメガの青年をどうにかしたかったのもあるらしく、ユセフ王子は王様の側妻であったオメガの青年を連れて行くことに成功したのだった。
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