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ユセフ王子に頼まれてアーディルをハレムの入口まで送る。寝所からハレムまでの通路はモザイクガラスで埋め尽くされた美術品のようなアーケードになっていて、夜伽に呼ばれた側妻と付き人しか通ることができない特別な通路だ。特にアーディルは王子のお気に入りなので、私が厳重に送迎することになっている。 基本的に無駄話はしないが、アーディルは私といる時いつも表情を固まらせて気まずそうにする。私は初めて自分から話しかけてみた。 「体調はもう随分いいのか?」 アーディルはハッとして私を見上げたあと、視線を落とした。 「はい。ユセフ王子とカシム様のおかげです」 「私は何もしていない」 「毎日こうして送って下さいます。夜は迎えに来て下さいますし。ありがとうございます」 「それが私の仕事だからな」  いったんそこで会話が途切れたが、少し間を空けたあと今度はアーディルから話しかけてきた。 「先日、ユセフ王子から王子とカシム様は同い年と聞きました。すごくビックリして」 「老けているとよく言われる。自分でも思う」  筋肉質な体つきと気難しそうな顔のせいもあるが、金釦と肩章が付いた真っ赤な堅い軍服のせいもあると思う。黒光りする軍靴に腰帯には物騒で仰々しい剣。美々しいユセフ王子とは真逆の印象だろう。 「実は僕も二十歳なんです」  私はつい足を止めて、アーディルに振り返った。
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