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 午前中は宮殿で政務をこなし、午後から王子と二人で市場へ視察に行った。お忍びなので軍服ではなく、庶民用の地味なブラウンのカフタンとサルエルパンツ(シャルワール)に着替えた。念のため腰帯に短剣を装備しておく。王子も同様のスタイルで頭にはターバンを巻いている。庶民の格好を真似ても滲み出るオーラを隠せないところが、さすが王族だ。  路地に所狭しと並ぶ屋台商店。小麦、フルーツ、モザイクガラスのランプや緻密な刺繍の絨毯。ユセフ王子は活気溢れる市場の様子をニコニコと眺めながら、ゆっくり歩いた。 「数ヵ月前に比べたら、だいぶ賑やかになったな」 「王子のご英断で、度々奇襲を仕掛けてきていた遊牧民が抑制されているからでしょう」 「彼らに土地を与えて定住させる案を出したのはカシムだ。お前は昔から剣術の腕だけでなく頭も切れる。本当に頼りになる」 「光栄です」 「その調子でアルファの官人たちをぎゃふんと言わせればいい」  ユセフ王子は私がアルファの重臣たちに疎まれていることを知っている。それでも王子は私をこうして頼って下さるのだ。有難いような恐れ多いような、複雑な苦笑を浮かべる。
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