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「カシム、お前は誰かいい娘はいないのか?」 「……私は……」  私は、ベータだ。ベータは至って平凡で、アルファのように才貌両全ではなく、オメガのように容姿端麗なわけでもない。だからこそ、アルファばかりの官人の中でアルファと同じように政務をこなす私を、官人たちは気に入らないのだ。そんな私と一緒になりたいと言う人間がどこにいるだろうか。アルファとオメガのような、時に悲劇的で時に運命的な出会いを夢見ても叶わず、ベータは同じベータの人間としか一緒になることができない。平凡に、分相応に。 「いません。出会うこともありませんから」 「お前なら引く手あまただろう。私が探しておこう」 「お気持ちだけで充分です。それに、近々遠征があります。今はそれに専念したいので」  ユセフ王子は「そうだった」と、私の肩を組んだ。 「まずは凱旋しないとな」  無事に凱旋したら、アーディルを正式な妻にしたいと王子は言った。それまでに私を好きになってくれるだろうか、と不安な気持ちを吐露する。言葉一つでほとんどのことが思い通りになる立場なのに、決して相手の気持ちを軽んじることはしない。優しくて尊いユセフ王子なら、例え王様の噛み跡が残っていたとしても、アーディルと番になれるに違いない。私はそれを強く望み、そしてそういう相手がいることがやはり羨ましくなるのである。
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