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レイフェルトが承諾すると、クローバはユリウスの額に自身のそれを合わせる。
赤毛の短髪の子どもが見えた。孤児院の庭でユリウスらしき少年と駆け回っている。子どもはクルルカと呼ばれていた。すると、白い法衣に身を包んだ者たちがやってきて、ユリウスの手を引いて行った。ユリウスは赤毛の子どもの名を呼びながら泣いていた。
ユリウスが少し大きくなったところまで場面が飛ぶ。日々の修行に少し疲れたような、すべてを諦めたような顔をしていた。ユリウスが聖堂に姿を現すと、赤毛の少年が跪いていた。聖騎士団に入った新しい従卒の顔を見て、ユリウスは泣きながらその少年に抱きついた。
さらに場面は飛び、城の礼拝堂の中に星と月の刺繍のベールを被ったユリウスがうずくまっている。傍には鎧を纏った赤毛の少年がいて、ユリウスを抱きしめていた。ユリウスがはっと顔をあげ、赤毛の少年を突き飛ばし逃げろと叫ぶ。その瞬間、礼拝堂の扉が開かれ、魔王が現れた。
「なるほど、想い人がいたのですね」
夢を包み隠さず実況していたクローバは、ちらりとレイフェルトを見る。レイフェルトは顎に手を添え、ずっと何か考えているようだった。
「では、このクルルカとかいうやつを消せばいいのか?」
「まあ、恨まれますが未練はなくなるでしょうね」
「コイツの前では、ユリウスは泣いてばかりだ」
クローバは思いがけない理由に目をパチクリする。
その時、ユリウスが目を覚ました。
ユリウスは2人を目に留めて、それから自分の頬が濡れていることに気づいて慌ててシーツに潜る。
「出て行ってください」
クローバはレイフェルトを連れ出そうとするが
「何故泣いていた。クルルカとかいう奴を消せばお前の憂いは晴れるのか」
「なんでその名前……」
「クローバに夢を探ってもらった」
クローバは額に手を当て天を仰ぐ。クローバの予想通り、ユリウスは「何勝手なことしてるんですか?!」と激昂した。
「クルルカを消す?! ふざけんな! そんなことをしたら俺は自害しますよ?! いいんですか?」
「よくない。消すのはやめよう」
「変に物分かりいいのムカつく! 大体人の頭の中に土足に入ってくんな! 最低だ!」
「お言葉ですがユリウス様、レイフェルト様は貴方が涙するのを見て大変心を痛められ、私にご命令を」
「見損ないましたよクローバさん、話がわかる人だと思ってたのに」
クローバは今は何を言っても無駄だと悟り、レイフェルトに退室するよう促す。
「お前はクルルカをどうしたいんだ」
思いがけない提案にユリウスの勢いが削がれる。
「どうって…………」
「お前の望みを言ってみろ」
「無理に決まってますよ、だって、今俺はアンタのものってことになってるし」
クルルカは、ユリウスの大切な幼馴染だった。孤児院ではクルルカの明るさに惹かれて、仲良くなれたかと思えば教会に連れて行かれた。
また会えたのは奇跡だと思った。身体が弱いのに、自分の側にいるため騎士団に入ったと聞き、もう二度と離れまいと誓った。かと思えば、姫君の身代わりとなり魔王の贄となることを任命され、再び引き離されてしまった。クルルカとは、そういう運命なのだと思った。
何より、クルルカとの別離を繰り返すのはもう耐えられない。けれども、
「クルルカに……会いたいです……」
魔王の城に来てからも、一日だってクルルカを忘れたことはない。思ったより親切にしてくれた魔王や魔物たちには、心細さから刺々しい態度をとってしまったことを少しばかり反省していなくもない。なにせどいつもこつもデリカシーや倫理というものがないのである。
「会うのか? 会うたび泣いてばかりいるのに?」
「アンタねえ!」
そこまで見られていたのかとユリウスは憤慨してシーツを跳ね除けた。
「承知した」
レイフェルトの言葉に、ユリウスの怒りは吹き飛びポカンとする。
「我輩の婚約者の望みだ。叶えてやろう」
ユリウスを見下ろし、いつものようにニヤリと偉そうに笑う。
「いいんですか?俺、その」
「良いのですか、想い人に会わせて」
クローバの言葉にユリウスは赤面する。
「構わん、すでに我輩のお手付きだしな。それに、連れ去られたとて我輩から逃げられると思うなよ」
レイフェルトは獰猛な笑みを浮かべ、ユリウスは背筋がゾクリとした。レイフェルトはクローバに指示を出していく。
「森の結界を緩めろ。人間が一人入れる程度でいい。ああそうだ、その人間の匂いや人相を」
「ちょっとだけ……」
ユリウスの言葉に、ん? とレイフェルトが首を捻る。
「ちょっとだけ、……見直しました」
ユリウスは顔を背けながら赤面している。
「そうか、惚れ直したか!」
レイフェルトはほれ見ろと言わんばかりにクローバにドヤ顔を向け、ユリウスはスンとして冷めた目でレイフェルトを見ている。そういうとこだぞとクローバは嘆息した。
この数日後、クルルカの方からやってくるとはこの時誰も思っていなかった。
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