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「……おい、これはどういうことだ?」
「僕にもさっぱりわかりませんが、まずは救助ですよ」
対象を追って足を踏み入れた雑居ビルの地下室で、僕らはおおいに戸惑った。
精密機械メーカーの社員は、確かにこの地下室に入ったのだ。だが、どれだけ待っても誰も訪れず、当人も出てくる気配がない。中の様子を確認せよとの上司からの指示でそっと侵入してみれば、対象が消えていた。
「君、大丈夫か? どこか痛むところはある? 名前、言える?」
代わりに、一人の少年がそこに居た。椅子に縛られた状態で眠っていたその子を解放し、意識レベルの確認をする。
「……あつまさ。痛いところは無いです」
「あつまさくんだな? 年齢は? なぜ、ここにいるのか、理由を言えるか?」
「十四歳。ここは……ここ、どこ? 俺、学校の帰り道で知らない女の人に声をかけられて、それで急に目の前が真っ暗になって……その後は、わかんないです」
「やはり、拉致されたのか。理由に思い当たることはある?」
「ありません」
少年に質問するのは建先輩の役目。僕の役目は、質問に答える少年の様子をつぶさに観察すること。嘘をついているようには見えない。
よって、核心に触れることにした。
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