第一章

4/8
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「……おい、これはどういうことだ?」 「僕にもさっぱりわかりませんが、まずは救助ですよ」  対象を追って足を踏み入れた雑居ビルの地下室で、僕らはおおいに戸惑った。  精密機械メーカーの社員は、確かにこの地下室に入ったのだ。だが、どれだけ待っても誰も訪れず、当人も出てくる気配がない。中の様子を確認せよとの上司からの指示でそっと侵入してみれば、対象が消えていた。 「君、大丈夫か? どこか痛むところはある? 名前、言える?」  代わりに、一人の少年がそこに居た。椅子に縛られた状態で眠っていたその子を解放し、意識レベルの確認をする。 「……あつまさ。痛いところは無いです」 「あつまさくんだな? 年齢は? なぜ、ここにいるのか、理由を言えるか?」 「十四歳。ここは……ここ、どこ? 俺、学校の帰り道で知らない女の人に声をかけられて、それで急に目の前が真っ暗になって……その後は、わかんないです」 「やはり、拉致されたのか。理由に思い当たることはある?」 「ありません」  少年に質問するのは建先輩の役目。僕の役目は、質問に答える少年の様子をつぶさに観察すること。嘘をついているようには見えない。  よって、核心に触れることにした。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!