1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

あなた「蛍」に会ったことはある? あ。虫の蛍じゃなくて。人の蛍ね。 知らない? せっかくだから教えてあげる。 「お客様のお望み、叶えに参りました。」 彼女と初めて会ったとき、そう言われたの。 「初お目にかかります。蛍です。新田様でお間違い無いでしょうか。」 彼女は、パッと見12歳程に見えた。よく見るとそれより大人っぽく見えるし、幼く見えた。 身長は150cm弱ほど、藍色のTシャツに白のオーバーオールを着ていた。 服からのぞく腕と足は簡単な衝撃で折れてしまいそうなほど細かった。 漆黒の黒髪は胸辺りまでストレートに伸びており、漆のように艶があった。 バランスの良い場所に口と鼻がある。 日焼けの知らない白い肌が年齢を霞がからせている。 「私が、新田芽吹です…」 「それでは早速描いていきますね。」 彼女は持っていた革で出来たトラベルバッグを開けた。 「え。もう?」 「時間がないので。貴方様の後にもお客様がおりますので。  長くて1週間程で仕上げます。そのためには一分一秒惜しみたくないので。」 私の質問に答えている間も一切手を止めず準備していく。 あっという間に彼女の前にイーゼルが立たされていて、真っ白なキャンバスがセットされていた。 「何を書くの?」 「お客様の心を描きます。」 「ヘ?」 私がこの絵かきの少女を雇ったのは叶えたい願いがあるから。 なのに心を描く? 「心の中を描きます。お客まさの心の奥深くにある願いを掘り起こさねば、  叶える、叶えない以前にお客様の願いが分からないのです。」 「そんなのことしなくても、私が願いを言えばいいんじゃ....」 「お客様は恵方巻きを知っていますか?」 「黙って食べるやつでしょ?」 「お客様の願いもそれと同じ原理です。口にしてしまえば  福が逃げてしまう。福が逃げれば、叶う願いも叶わなくなってしまいます。」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!