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「すごい……」
再び戻ってきた課長のマンション。
改めてまじまじと見渡すと、驚愕と感動でしばらく動けなかった。
「綺麗! 可愛い! お洒落!」
課長の自宅は、びっくりするほど清潔に掃除や手入れが行き届いている。
それでいて、ダイニングやリビングの家具はどちらかというと可愛らしい。
温もりのあるカントリー調のテイストが、あの鬼軍曹の自宅とは思えない。
「ギンガムチェックのソファー可愛い! 猫の置物! サボテン! アンスリューム! パッチワークのクッション!」
どこを見ても可愛い!
「……あの、課長何人家族ですか?」
もしかしたらお姉さんか妹と住んでいるのかもしれない。
「……一人暮らしだが?」
「一人!?」
何か問題でも?と表情に出す課長は、これまた可愛いチェックのエプロンを羽織り、これまた整えられたキッチンに立つ。
綺麗に並べられたスパイスの瓶達。
つるされた可愛いカップやグラス。
淡い水色のレトロなオーブントースター。
ふかふかのキッチンマット。
「可愛すぎる……」
どうして一人暮らしの課長の家が、こんなにキュートなの。
「できたぞ」
「わあ!」
そして料理の手際も凄まじい。
一時間もしないうちにダイニングに並べられた、焼き鮭や煮物、ご飯と具沢山のお味噌汁、それにホイップやフルーツが添えられたこんがり焼けたフレンチトースト。
よだれと涙と腹の虫の音が盛大なハーモニーを奏でる。
「そこ座りなさい」
エプロン姿で、お箸やフォークを並べながらそう言う課長に絶句する。
課長、こんなキャラだっけ?
想像していた人と真逆だ。
もっと無骨で、荒々しくて、時には冷徹で。
それなのに、こんなに可愛らしい部屋で手際よく料理を作り、部下に振る舞ってくれるなんて。
……まさか。
「もしかして、わざとですか?」
「……何が?」
恐る恐る、課長を見上げた。
「会社での“冷徹課長”は、この愛らしい“本当の課長”のカモフラージュなんじゃ」
途端に爆発したように真っ赤になる課長。
「……そうだけど?」
図星だった。
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