何、願ってくれちゃってるんですか

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 促されるまま食卓につき、手を合わせる。 「いただきます……」  お皿までお洒落で可愛い。  料理に合わせて色やテイストまで変えられている心配りに感嘆した。  ……まだ信じられない。  目の前の課長が、課長じゃないみたいで。  敢えて鬼軍曹の振りをしなくても、充分魅力的な人間性だと思うのに。 「……美味しい!」  味噌汁を啜った瞬間、あまりの美味しさに声を上げた。  優しいお出汁の味が身体に染みる。  野菜がたくさんなのも嬉しい。 「そうか。良かった」  ……笑顔が優しすぎる。  それに可愛い。  こんなに美味しい料理と笑顔を貰ったら、身も心もほよほよに解けて疲れなんか吹っ飛んでしまう。  課長は一体、何者なの。  極めつけはフレンチトースト。  香ばしい香りとふんわりした食感が食欲をそそる。  優しい甘さのそれは、どうしてか懐かしさを誘った。 「っ美味し……」  声と共に嗚咽が漏れる。  おかしい。  あまりの美味しさに泣いてしまうなんて。  この味、少し似てるんだ。  小学生の時に、両親と三人で一度だけ食べた、父が作ってくれたフレンチトーストと。  あまり家に居ることがなかった父が、唯一一緒に居てくれた日曜日の朝。  かつての情景が、ありありと蘇る。 「う……美味しい……」  課長が差し出してくれたティッシュで涙を拭いながら、夢中になってフレンチトーストを頬張った。 「泣くな。……いくらでも作ってやるから」 「はいぃ……」  何やってるんだろう。  上司の家にお邪魔になって、御馳走までいただいて、号泣するなんて。   「……だからほっとけないんだ。星山は」 「え?」  課長は困ったように笑った。 「ずっと気になってた。いつも溌剌と笑ってるのに、ふとした時にそうやって哀しげな目をするから」 「……そうですか?」 「ああ」  私、知らないうちにそんな顔してたんだ。  課長がずっと見ていてくれたなんて。    
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