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「うち、母子家庭で。ザックリいうと、私、父の愛人の子なんです」
幼い頃は、わからなかった。
どうして父は、あまり家に帰ってこないのか。
どうして運動会もクリスマスもお正月も、三人で過ごせないのか。
「父の家族に不倫がばれて、二度と会えなくなってしまって。そこからは、母はいろんな男性と関係を持つように。そんなのを身近で見ているうちに、恋とか愛とかに、懐疑的になってしまって……」
課長は驚きも同情もせずに、黙って耳を傾けてくれていた。
その目があまりにも優しいから、するすると言葉を出すことができた。
「だから私、恋愛に向いてないんです。……決して課長がタイプじゃないとか、そういうことではありません。むしろ本当の課長を知って、とても素敵だと思いました」
気まずさを覚えながらも、ニッコリと笑う。
課長が褒めてくれた瞬間から、自分の笑顔が好きになれた。
「本当に、ありがとうございました」
これを御馳走になったら、アパートに帰ろう。
交際もしていない異性が一緒に住むなんてやっぱりよくないと思う。
私には、あの家しかない。
今までも、これからも、一人で生きていくんだ。
「……別に無理して好きにならなくてもいい」
「え……」
「俺のこと、好きにならなくていいから、一緒に暮らそう。家族として」
____家族。
「せめて、強盗の犯人が捕まるまでの間だけでも。そうじゃないと心配で、俺は禿げる」
禿げるほど心配してくれるの?
冗談で言ってくれたかもしれないのに、全く笑えない。
むしろ涙で、課長のことが見えなくなった。
「絶対に変なことはしない。お前の支えになれるように、努力するから」
どうしてそこまで、私のことを大切に思ってくれるの。
ありふれた星占いを真に受けて。
この人の純真さと温かさが、信じられないくらい胸を溶かして涙に変わる。
「信用できないか?」
大きく首を横に振る。
むしろ、こんなに信用できる人は初めてだ。
「だったら、一緒に暮らそう。星山」
何、願ってくれちゃってるんですか、課長。
おかげで私の願いも、間接的に叶ってしまった。
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