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「こうですか?」
「ああ。上手」
帰宅してすぐに、私達はキッチンに向かった。
新さんが器用な包丁捌きでキャベツやニラを微塵切りした後、私が餃子のタネをこねる。
その後は二人でダイニングの席について、餃子の皮で包み始めた。
「光花は覚えが早いな」
「教え方が上手いからです」
新さんは、鬼軍曹課長の時には想像できないような優しさで、すぐに褒めてくれる。
教え上手なところは、どっちの彼の時も変わらないけれど。
黙々と餃子を作るのも、向かいに座って餃子を作る彼を見るのも心地良かった。
とてもゆっくりと、温かい時間が流れている気がした。
それはきっと、私が憧れていた家族との時間そのものだ。
控え目にクーラーが効いた部屋。少量のテレビの音。猫のマグカップが二つ。ごま油の良い匂い。
何もかもが、心を満たしていく。
「……今日はありがとうございました」
餃子を包みながら、ポツリと呟いた。
「一緒に買い物したのも、フードコートで焼きそば食べたのも。スーパーで材料を買って、餃子を作るのも。全部楽しくて、癒されました。こんなふうに幸せな気持ちになるの、久しぶりです」
正直に思っていることを伝えられた私に、新さんは頬を赤らめて微笑んでくれる。
「こんなんで良ければ、毎日でもできるぞ」
「ホントですか?」
……幸せ。
そんな感情が抵抗なく湧いてくることに驚いて、思わず彼から視線を逸らした。
何を甘えているの。
このままずっと、こんな毎日を過ごせたらいいなんて。
彼の気持ちを利用しているみたいで、罪悪感も感じた。
「よし。焼くか」
もしかして私は彼に、お父さんを重ねているんじゃない?
「いい匂いですね」
「餃子は焼き加減が命だからな」
チェックのエプロン姿の彼の横顔に見惚れ、また胸が高鳴る。
早くも私は、彼に心を開き始めているみたいだ。
ロマンチストで恐ろしくピュアな、鬼軍曹じゃない心優しい彼に。
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