私の心を照らすのは

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「こちらが我が社一押しのフライドポテトです。サクサクした軽い歯触りと、じゃがいもの甘みが特徴です。フライ時間も従来のものより短く、スピード感ある提供に繋がるかと」 「なるほど。早速試食してみます」  あじさい屋珈琲、購買担当の栗原(くりはら)さんが、カフェのスタッフを呼びフライドポテトのサンプルを手渡す。  栗原さんは私と同世代くらいの男性社員だ。  柔和な雰囲気で、必要以上に気を張らずに話せるから内心助かっている。 「有村フーズさんの食品はどれも美味しいし調理もしやすいから、助かってますよ」 「ありがとうございます!」  手応えはばっちり。  祈るような気持ちで、資料を読み込む栗原さんを見つめる。 「……いつも思うんですけど、星ちゃんの資料は見易いですね。それに熱量が凄まじくて。とても好感持てます」 「ホントですか?」  思ってもみなかったところを褒められ、更に充足感が募った。  これも、普段課長が口酸っぱく指導をしてくれる賜物だ。  帰ったらお礼を言おう。  そう思ったら、自然と顔が緩んでしまう。 「……笑顔、素敵です」 「え?」 「すみません。仕事中に言うことじゃないですね。でも星ちゃんの笑顔、とてもいいですよ。つい心を開かせる。営業に向いてる人だ」 「……ありがとうございます!」  また頭によぎるのは、新さんのことばかり。 『笑顔が素敵な人が運命の相手』 「大丈夫?顔真っ赤ですよ」 「な、なんでもないです」  無事に契約を結ぶこともでき、軽い足取りで直帰する。  なんだか今日はすごく幸運な日だ。  もしかして、今日の星占い、山羊座一位だったかな?  新さんみたいなことを考えながら、マンションの最寄り駅を歩く。 「お、」  駅前のケーキ屋さんのショーケースが目に入り、思わず立ち止まった。  たっぷりのフルーツのタルトや、うさぎの形をしたショートケーキ。  新さん、こういうの好きそうだ。 「すみません。これとこれ、ひとつずつお願いします」  良い気分だからって、何もない日にケーキを買うなんて。  そんなことができるのも、喜ばせたい相手がいるおかげだ。  “家族”  ふいにそんな言葉が頭に浮かんで、ケーキの箱を手にニヤけた。
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