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「新さん、私そろそろ」
「デザートに梨食う?」
「アパートに」
「明日一緒に買い出し行かない? 特売デーらしい」
「強盗が捕まって」
「たまにはピザでもとるか!? それとも寿司!?」
「新さん……」
次の日もその次の日も、なかなか言うタイミングが計れない。
良くないとは思うけど、だらだらと先延ばしにしてしまっている。
だけどこのまま、新さんの寝室を横取りし続けるわけにもいかない。
____「あれ? 今日光花休みか?」
また次の朝が来てしまった。
いつものようにビシッとスーツを着こなした新さんが、ネクタイを締めながらラフな格好の私を一瞥する。
「はい。何故か今日、指定休とってたみたいで」
「そうか。じゃあゆっくり過ごすんだぞ」
柔らかく微笑んでくれる新さん。
こんな何気ない朝のやり取りも、尊く感じてしまって。
「……あの! 今日は、私がご飯作って待ってます」
こんな日にしか、役に立たないし。
いいことを考えた。
今日はできる限り家事に専念して、今までのお礼も兼ねて新さんに手料理を作ろう。
そして、今夜アパートに戻る話を切り出す。
「え……」
新さんはフリーズすると、突然顔を背け手で口元を覆った。
「どうしたんですか?」
「いや、……ちょっと待ってくれ。今かなりみっともない顔してると思うから……」
小刻みに震えている新さんは、顔が真っ赤だ。
「手料理……家で待ってる……奥さん……」
「大丈夫ですか?」
少しして、咳払いして彼は言った。
「……なんでも良い。光花が作ってくれるなら」
「そうですか?」
「ああ。楽しみにしてる」
屈託のない笑顔に、胸がキューと鳴った。
鼓動が速まり、今にも叫びだしてしまいそうなほど高揚する。
この気持ちは、一体なんなのか。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
負けじと満面の笑みで微笑むと、新さんはその場にへたり込んでしまった。
「……可愛い……いってらっしゃい……奥さん……」
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫です……」
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