私の心を照らすのは

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「……どうしたの? 何かあった?」  ついつい素っ気ない声色になってしまう私に、母は心配そうな声で言った。 「テレビでさ、強盗事件見て。あそこ、あんたのアパートの近くでしょ?」 「覚えててくれたんだ」  意外な言葉に驚いて、次にほんのりと喜びを感じた。 「当たり前でしょ。心配だから電話してみたのよ」  素直に嬉しかった。母が私の心配をしてくれるなんて。 「ありがとう。もう大丈夫。犯人捕まったし」 「……そう。良かった」 「お母さんは? あの人と順調?」 「……うん。あのね、もう別れたんだ」  余計なことを聞いてしまったと反省する。  しかし母はなんてことのない風に朗らかに言った。 「ねえ、光花。たまにはうち帰ってきなよ」 「え……?」  更に予想外の展開。  母が私にこんなことを言ってくれるとは。  もしかして、今は一人だから? 「たまにはお茶でもしよ? 顔見せてよ」 「うん……」  久しぶりに親子二人で過ごせるかもしれない。  単純な私は、母の言葉に心を弾ませてしまうのだった。 「……今から来れる?」 「今から?」  チラリと壁掛け時計を見た。  新さんが帰ってくるまでは、まだ時間がある。 「……わかった」  電話を切ると、焼く前のハンバーグを冷蔵庫にしまった。
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