私の心を照らすのは

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 母は寂しがり屋だ。  父が居なくなってから、いろんな男性に依存するようになった。  母よりだいぶ年上の人や、逆に年下の人まで。  職業も様々で、お金持ちの人もいれば、中には無職の人もいた。  その人達がどんなに優しく微笑みかけてくれても、私は内心彼らが不快で仕方なかった。  私の心の中には、いつだって父と母と三人で食べた日曜の朝食の風景がなくならなかったから。  そして、悔しかった。  母の寂しさを埋めるのが、私ではなかったことに。 「光花、久しぶりね」  懐かしく古めかしい市営住宅のアパートで、母は笑って出迎えてくれた。  やっと二人きりで親子の時間を過ごせる。  そんな、ささやかで淡い期待は、すぐに打ち砕かれる。 「……こんちは」  部屋の奥にだらんと腰かけていた、母よりうんと若い茶髪の男性の存在に気づき、絶望で目眩がした。 「光花、お母さんこの人と結婚するの」  少女のように可憐に微笑む母を、とてもじゃないけど祝福できそうになかった。  ただ心は虚無感だけが残って、渇いた痛みが疼く。  ……やっぱり私じゃなかった。  お母さんの心の隙間を埋めるのは。 「二人だけでささやかな式を挙げたいと思ってるの。申し訳ないけど、少し援助頼めない?お祝儀がわりに」  最初から、それが目的だったんだ。 「……光花ちゃん、美人だね」  無精髭の生えた、ヨレヨレの柄物シャツを着た男は、ニタリとして私を舐めるように見た。  不快で堪らなかったけど、昔からの癖でつい笑顔を作ってしまう。  私のせいで、母が恋人から嫌われないように。  幼い頃の私の、精一杯の気遣いだった。  ……悲しい。  虚しい。気持ちが悪い。  我慢していた様々な感情が勢いよく沸いてきて、小刻みに震えた。  それでも笑顔が崩れない。  能面のような私の作り笑顔。  どんな時も笑っていたのは、今にも壊れそうな自分を守りたかったからだ。  私は大丈夫だって、いつも言いきかせていた。 ____『お前の笑顔が一番輝いて見えた』  ふいに思い出す、新さんの言葉。  ああ、それでも彼にだけは、本当の笑顔で笑えていた気がする。  
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