私の心を照らすのは

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「光花、この人(みのる)さん。あんたに会いたがってたのよ?」 「稔です。光花ちゃん、“会いたかった”」  ゾクッと悪寒が走り、吐き気まで覚えた。  フラッシュバックのようにして思い出す、母の歴代の恋人達のいやらしい眼差し。  早く帰らなきゃ。  全財産、母に渡したっていいから。  家に帰りたい。  ……新さんの家に。 「なあ、一花(いちか)。コーヒー豆切れたから買ってきてくんない? 俺淹れるのうまいだろ? 光花ちゃんにも飲ませたいんだ」 「そうね。わかったわ」 「ちょっと、待って」  血の気が引いて声がうまく出ない。 「待ってて。ついでに甘いものでも買ってくるわ」  嘘でしょ。行かないで。  二人きりにしないで。 「光花ちゃん、二人で待ってよう」  この人と二人になったら、私は…… 「じゃあね」  何も知らない無邪気な母は、私の助けなんて気づかずにすぐに玄関から出て行った。  動機と震えが止まらない。 「……光花ちゃん、可愛いね」  背後に感じた気配に鳥肌が立って、足が竦む。 「娘の方がいいな」  すぐに家を出たのは、もう一つ理由があった。  忘れようと封じ込めていた記憶がかすかに蘇る。  幼い頃、母の恋人にベタベタ身体を触られたこと。  幸いにもその先の行為はなかったけど、彼らのじっとりした独特な視線がすごく苦手で。  危機感を感じた私は、逃げるように一人暮らしを始めたんだ。  勘違いじゃなかったら、この人も。 「私、もう帰ります」  震える足で後退り靴を履こうとした瞬間、力強く腕を掴まれた。 「……待てよ。“お母さん”帰ってくるまでさ、俺とイイことしよ?」  恐怖で声が出ない。  足がいうことをきかない。 「怖がらないで。気持ち良くしてあげるから」  男が私の服に手をかけた瞬間、もうダメだと諦めかけた。  怖くて、気持ち悪くて、今にも気を失いそう。  だけど目を閉じた途端、浮かんでくるのは新さんの笑顔で。  何故だかわからないけど、絶対に彼を悲しませてはいけないと強く思った。 「離して!」  腕を振り払い、その場にあった靴や置物を思いきり彼に投げる。  男が怯んだ隙に、パンプスを手に裸足で走り出した。
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