私の心を照らすのは

12/13
前へ
/82ページ
次へ
 そのまま駅前まで全力疾走して。  恐る恐る振り返り、男の姿がないことを確認した時、やっと涙が出てきた。  小さく嗚咽を漏らしながら、まだ震えている手でスマホを取り出す。  こんな時も、思い出してしまうのは新さんのことばかり。  迷惑だと思いながらも、心細さに耐えられず彼に電話してしまう。  真夏の夕方はまだお昼間くらいに明るく、駅前の商店街は人で賑わっている。  私だけがぽつんと、独りぼっちで佇んでいるような気がした。  ……声が聞きたい。  一言でもいいから、彼の声を。 「……光花?」  呼び出し音が一回鳴った瞬間、すぐに聞こえた普段通りの低い声。  心の底から安心して、堪えきれずに大きな嗚咽が漏れる。 「光花!? どうした!? 大丈夫か!?」 「ごめ……なさ」  泣きじゃくりながら、それでも必死に声を出す。  途切れ途切れに、母の家に行ったこと、母の恋人がいて怖い思いをしたことを説明した。 「私……怖くて」  唐突にこんなことを言って、困惑するに違いない。  ましてまだ仕事中。  途轍もない後悔に苛まれるも、止められなかった。  素直に助けを求められるのは、この世界に彼しかいなかった。 「待ってろ! 今すぐ迎えに行くから!」  そう言って、私の居場所を尋ねる新さん。  ホッとして、また別の涙が溢れ始めた。 「できるだけ人が多いとこにいて。……そうだな。ファミレスなんかがあったら、そこに入って待ってて」 「はい……」  言われた通り、すぐそばにあったビルの二階のファミレスに入る。  店員の女性の溌剌とした挨拶を聞いた頃には、少し落ち着きを取り戻し、震えも止んでいた。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3463人が本棚に入れています
本棚に追加