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「お疲れ様」
今日の業務が終わり、自分自身に労いの言葉をかける。
自宅のアパート近くの公園は今日も静かで、真夏だけど夜になると風が心地良い。
プシュッと缶ビールのプルタブを開ける音だけが響いた。
ここで一人呑むのが私の生き甲斐。
誰もいない暗い部屋に帰りたくないというのもあるけど、満天の星空を見上げ呑むビールは格別だから。
『お星様に願ってごらん』
こんなに星が綺麗な夜は、父が言っていたことを思い出してしまう。
もう、“他の人のお父さん”になってしまった父。
小学生の時以来、26歳になった今もずっと会ってない。
空にキラリと描かれた放物線に目を見開く。
「っ流れ星!?」
初めて目にした流れ星に固まり、直後奮い立った。
お願い事をしないと。
……きっと叶わないけれど。
「……家族が欲しい」
声にすると思った以上に侘しく聞こえた。
心の底から出た願いだ。
温かな家族が欲しい。
一緒にいると心地良くて、安心して、思い合えるような誰かが傍にいてくれたら。
……なんて、恋愛すら未経験の自分には雲の上のような話だけど。
「……ペット飼おうかな」
そう呟いたところまでしか記憶が無い。
次に目を覚ました時にはもう朝で。
いつもより柔らかく感じるベッドに違和感を感じ目を開く。
その瞬間、心臓も時間も一切合切止まってしまったように固まった。
「…………………………」
……………何故。
「うーん……」
びっくりするほど温かく包み込まれた身体に絶句する。
私の頭は逞しい腕の上にしっかりと収まり、目の前には。
「…………課長」
至近距離に香月課長のぼんやりとした顔があり、今にも触れてしまいそうだった。
「ぎ、」
ぎゃー!と声が出ない。
人は本当に恐怖を感じた時、なかなか声が出ないものだと悟った。
「あれ……星山……?」
むにゃむにゃと寝ぼけながら私の顔をじっと見つめる課長は、少しあどけなくて、それがなんとも言えず色っぽい。
あろうことか、彼は驚きもせずにふっと笑う。
そして、私をぎゅっと抱き締めるのだった。
「ち、」
ちょっと!と言えない。
声が出ない。
どういうこと!?どうしてこんなことに!?
記憶をどう辿っても、何も思い出せない。
「……あー。……夢、叶ったんだ」
そんな彼の言葉に、ますますパニックになるばかりだった。
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