3488人が本棚に入れています
本棚に追加
それから実際に声が出たのは、数十秒後のことだった。
課長が私の髪をもったいぶるように撫でた瞬間だ。
「ぎゃー!!」
自分の声に鼓膜が破れそうになる。
そこでやっと彼から解放されて、勢いよく飛び起きた。
「ななななななんなんですか! なんで!? ここはどこ!?」
まさにここはどこ、私は誰状態の私を、課長はまだ眠たげな目で見つめる。
「俺んちだ」
そして当たり前のようにポツリと呟いたのだった。
「なななななんで!? なんで課長の家に!?」
昨日、課長に会った覚えもない。夜一緒に飲んだわけでもないし、ましてそういう関係になった記憶も……。
パッと自分の姿を確認する。
昨日着ていた服のままで、胸を撫で下ろした。
だけどまだ油断してはならない。
訝しがる私に対して、至って冷静で平常運転の課長。
「落ち着け。何もしていない」
潔白を示すかのように両手を挙げる課長。
「だったらなんでこんなことに……」
途端に彼は目を泳がせる。
「課長……?」
怪しい。怪しすぎる。
「……心当たりならある」
驚愕の言葉にゴクリと固唾を飲み込んだ。
「……なんですか?」
「………………」
「………………」
「………………」
「何何何ー!? 言ってー!」
突然真っ赤になる課長に絶句した。
こんな課長を見るのは初めてで。
「……流れ星」
「……流れ星?」
そう言えば、私も昨日見た。
ほんの一瞬、夜空に光る流れ星を。
「…………流れ星に、お前のことを願った」
「私の!?」
全く見当がつかない彼の発言に、脳みそはパンク寸前。
しかしトドメをさすように、彼は再び口を開いた。
……至極、恥ずかしそうにして。
「……お前と、一緒に暮らせますようにって」
「え?」
………………?
「……何故?」
課長は狂ってしまったのか。
最初のコメントを投稿しよう!