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圧倒されるような新さんのオーラに女性は黙り込み、父は青ざめて怯んだ。
新さんは父に近づくと、貫くように真っ直ぐ見据える。
「あなた、光花さんのお父さんですか?」
父は新さんから目を逸らし、苦虫をかみつぶしたように再び黙る。
ズキンと胸が痛んだ。
……やっぱり、言ってくれない。
私のお父さんだって。
「……そうです」
しかし次の瞬間、父が再び顔を上げて新さんを見つめたので、私もハッとする。
新さんに負けないくらい、父は真剣な表情で真っ直ぐ彼と、そして私を見つめていた。
「……光花の父です」
小さい声だったけど、ハッキリとそう答えてくれた父。
瞬く間に涙腺は崩壊し、流れる涙を手で拭った。
言ってくれた。
私のお父さんだって。
「そうですか。……良かった。俺、お父さんにお会いしたかったんです」
思ってもみなかった新さんの発言に、驚いて涙も止まる。
「ずっと伝えたかった」
新さんは、父に向かって嬉しそうに微笑む。
「……光花さんをこの世に生んでくれて、ありがとうございます」
幸福そうな眼差しに、胸が締めつけられて再び涙が溢れた。
信じられなかった。
こんなふうに、自分の生を肯定してもらえる日が来るなんて。
それも最愛の人の口から。
「安心してください。ここから先は、僕が光花さんを幸せにしますんで」
そう言って私の手を握り、この場を立ち去るように促す。
彼に連れられるがまま背を向ける私に、父は声を上げた。
「……待ってくれ」
「……お父さん?」
振り向いた私を、父は勢いよく抱き締める。
懐かしい匂いがして、鼻の奥がつんとした。
「……ごめんな、光花。守ってやれなくて」
震える父の声に、泣くのを堪え首を横に振る。
「……どうか……幸せに」
そう言って身体が離れると、自分でもびっくりするくらい優しい気持ちになれた。
「お父さんも、幸せにね」
泣かないで、心からの笑顔でそう伝えることができた。
……新さんが居てくれるからだ。
私達は今度こそ手を繋いで歩き出す。
憑きものが取れたように清々しく温かい気持ちで、彼の手を握り締めた。
「新さん、……ありがとうございます」
また泣きそうになるのを我慢して、精一杯お礼を伝える。
だけど彼は苦笑して、「待たせてごめん」と謝るばかりだった。
何度だって、彼に守られて救われて、何度も彼を好きになる。
こんなにも溢れそうになる愛しい気持ちは、他の誰かとでは味わえそうにない。
「新さん、お願いがあります」
「何!? なんでも言ってくれ!」
恥ずかしくて顔を熱くさせながら、彼の耳に口元を近づけ囁いた。
「今すぐ帰りましょ。……早くあなたに触れたい」
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