本当の家族に

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*******  数日後。  外回りから戻って来た後も仕事が立て込んでいて、珍しく一人で残業をすることに。  一通りの業務が片づくと、ストレッチしてため息をついた。  早く帰って新さんとまったりしたい。  お揃いのルームウェアを着て微笑む彼を想像し、口元が緩んだ。  ……まだ信じられない。  新さんと、婚約したなんて。  恥ずかしくて会社ではつけていないエンゲージリングを、こっそり鞄から出して眺めていた時。  コツコツと足音が聞こえ、慌てて指輪をしまった。 「……お疲れ様」 「お、お疲れ様です!」  背後から現れたのは、朝比奈さん。  彼女はピクリとも口角を上げずに私を見据えた。 「あ、あの」 「……いつまで新の家に居座るつもり?」  彼女は辟易したようにため息をついた。 「彼の迷惑だって言ってるでしょ。お願いだから早く出て行って」  ……どうしよう。  婚約したからって言うべきか。  でも皆にバレてしまったら。 「部下を家に連れ込んでるなんて知られたら、彼のキャリアに傷がつくと思わない? それも、貴方みたいなパッとしない平社員」  今の言葉は堪えた。  結婚だってそうかもしれない。  パッとしない部下の私が相手じゃ、皆困惑するかも。  ……自信がない。  胸を張って彼の妻だと言えるのか。  ……だけど。 「……嫌です」  初めて朝比奈さんにハッキリと自分の気持ちを伝えた。 「絶対に出て行きません」  もう、自分の気持ちからも、あの温かい家からも逃げない。  私の居場所は、新さんの家だけなんだから。 「ちょっと、いい加減に」 ____「いい加減にするのは朝比奈の方だろ」  帰ったはずの新さんの声が聞こえ、驚いて固まる。  彼はふわりと私の肩を抱いて、朝比奈さんに微笑んだ。 「俺達結婚するんだ。だから一緒に住んでても文句ないだろ?」 「………………」  朝比奈さんは呆然と絶句する。  そして、キッと私を睨みつけるのだった。 「何!? そういうことは早く言いなさいよ!」  私に向かって怒りを露わにする朝比奈さんに、頭を下げるしかない。 「バカバカしい。もう勝手にすれば」  そう言ってフロアから去って行く朝比奈さんを、黙って見送るしかなかった。 「帰ろう、光花」 「……はい……」  微笑む新さんに笑い返せない。  複雑な気持ちだ。  朝比奈さんは、新さんのことを。  帰り道も黙ってとぼとぼと歩く私のことを新さんは苦笑した。 「そんな顔するなって。……仕方ないだろ。俺が愛してるのは光花だけなんだから」  そんな甘い台詞をさらっと言ってのける新さんに、爆発したように顔が熱くなる。  ……申し訳ないけど、私だって新さんだけは譲れない。 「おっ流れ星」 「え!?」  彼の言葉に思わず夜空を見上げる。  だけど既に、夜空に流れる星は消えていて。  それでも心の中でお願いを唱えた。 「何かお願いした?」 「……秘密です。新さんは?」 「秘密」  手を繋いで家に帰ろう。  帰ったら、二人で温かいご飯を作って。  お風呂上がりにはアイスを食べて。 柔らかい毛布に包まって、眠るまで他愛もない話をして。  そんな何気ない、だけどとてつもない奇跡のような幸福を噛みしめて、再び夜空に感謝を込めた。  
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