猫島

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「爪とぎ……。それは爪切りがないからですよ。妖怪になったんじゃない」 「そうかな。妖怪になってないなら帰りたいね。君はなにかアイデアがあるのかい?」  それはずっと考えていた。近くに船が通るならのろしを焚いてSOSを出すという方法もある。だがそんなことはとっくに林田がやっているだろう。人がいる島の方角が分かればいかだを作って脱出できるがこの島がどこにあって何キロ離れたところに人がいる島があるのか見当もつかない。 「これだけ漂流物が流れ着いているんだから近くに人の住む島はきっとあります。この島で一番高い岩山に登って私は辺りを見てきます」 「そうかい。私は目が悪くてね。頼んでいいかね?」 「任せてください」  紘一は立ち泳ぎをしながら答えた。 「それじゃあ、あわび捕りをしよう。ここは砂浜だからあわびはいない。あっちの岩場に移動しよう。君、泳いでいけるかね」 「ええ。水泳は得意です」  二人は百メートルほど泳いで岩場に行った。潜るとあわびがあった。紘一はあわびを四つ捕り海からあがった。林田は先に海から出て岩の上に座っていた。 「案外、簡単だろう。私はこれから蛸壺を仕掛ける。君、待っていてくれたまえ」  林田はそう言うと蛸壺を置いた砂浜のほうへ歩いて行った。紘一は海を眺める。早く帰りたい。妻と子供の顔が見たい。  林田が蛸壺を仕掛けたのでテントのあるところに戻る。猫が数匹集まっていたのを避けて紘一は地面に座る。 「君、疲れたのかい? これからジャガイモ掘りをしようと思ったんだが」 「少し疲れました。お昼はあわびだけでいいですよ」 「そうかい。じゃあ刺身と焼きあわびにしようか。包丁はないがカッターナイフならあるんだ」  紘一は頷いてこの島で一番高いと思われる岩山を見た。ロッククライミングは経験がある。道具がないのは不安だが岩山はそう切り立っていない。命を落とすような危険はないだろう。
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