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十分ほどつけただろうか。急に服を引っ張られた。
「おい、君、何をしているんだね」
人がいた! 紘一は嬉しくなって振り返った。天然パーマの髪を肩まで伸ばした三十代くらいの男性がいた。年齢的には紘一と変わらない。
「猫を追っているんだ。喉が渇いて死にそうなんだよ」
「遭難者かね?」
「ああ。嵐でやられた。とにかく水をくれ」
太陽は容赦なく紘一の体に熱を浴びせている。頭が痛くなってきた。
「ついてこい。湧き水があるところを知っている」
男性は岩山の横を通り崖の向こうへと行った。反対側から崖を見ると足元から水が湧き出ている。紘一は両手で水をすくって喉が癒えるまで飲んだ。猫が岩の向こうから二人を見ている。
「助かった。君の名前を教えてくれ。ここに住んでいるのかい?」
「私は林田だ。一年ほど前に台風にやられて流れ着いた。ここは無人島だよ。いや、猫島というのが正解か」
人がいたことで希望が湧いていたのだが、林田も遭難者か。それも一年もここで暮らしているという。紘一は仕事もあるし、家族もいる。結婚して五年の妻と二歳になる子供だ。すぐにでも家に帰りたい。
それにしても猫島とはなんだろう。確かに猫の多さは異様だが。
「林田さん、猫島というのは?」
「ここの猫の半分は妖怪なんだ。生きている猫が死んだら妖怪になっている。私は一度だけ猫魈を見たよ」
猫魈、化け猫や猫又のボスである妖怪か。本では読んだことがあるが本当にいるだなんて信じられない。林田は無人島の恐怖でおかしくなってしまったのではないだろうか。
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