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「猫魈というのは尻尾が三本に分かれている猫ですよね。目の錯覚でそう見えたんじゃありません?」
「いや、会ってから私の体に変化が起こり始めたんだ。詳しくは後で話す。魚を釣りに行こう」
そうか。喉が癒えたと思ったら空腹を感じ始めた。魚が釣れるのなら早く食べたい。
この島は砂浜と崖だけじゃなく、海から二十分ほどのところには木も生えているし草むらもある。林田は草むらの上にテントのようなものを作っていた。
「流れ着いた布切れや木を使って作ったんだ。窮屈だが二人は寝られるだろう。竿はちょうど二つある。漂着したボートに乗っていたんだ。君、運がいいな」
林田はそう言うとテントに立てかけてあった竿を二本取った。猫が数匹逃げた。
来た道を戻る。崖や岩山ばかりで足が疲れる。林田は慣れた足取りで海に向かって進む。ようやく釣りスポットに着いたらしい。林田が振り返って微笑む。
「ここはキスが釣れるよ。釣れたら塩焼きにしてやろう」
火も起こせるのか。紘一は感心した。
竿を一本受け取る。立派な竿だ。林田が砂浜に行ったかと思うとゴカイを集めて来た。
「これが餌だ。慣れたら君もすぐに釣れるよ。ま、今日は練習だな」
林田は紘一がずっとこの島にいるようなことを言っているが紘一は早く家に帰りたい。釣りに来たのだってお腹が空いたからだ。満腹になればこの島から脱出する方法を考えたいと思っている。
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