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水浴びを終えると林田が仕掛け網を置いた。
「今夜は川魚といこうじゃないか。お昼は海で貝を捕ろう。あわびが捕れるよ」
紘一は頷いた。一刻も早くこの島を出たかったが方法がないのなら仕方がない。
服も川で洗って乾かした。夏なのですぐに乾いた。
海に向かって歩く。猫が数匹ついてきてはいなくなり、ついてきてはいなくなった。みんな日本猫のようだ。
紘一が流れ着いた砂浜に着いた。プラスチック製の容器やポリタンク。中には蛸壺なんかも漂着している。蛸壺は使えそうだ。
「林田さん、これは使えるんじゃありません?」
「おお、君、いいものを見つけたね」
「蟹を探して仕掛けましょう。今夜は川魚と蛸が食べられますよ」
「蛸は蟹を食べるのかね。君は物知りだ」
林田は蛸壺を大事そうに持って波の来ないところへ置いた。
「さあ、あわび捕りを兼ねて海水浴をしようじゃないか。服を脱ぎたまえ」
紘一はパンツ一枚になった。林田もふんどし姿になる。パンツはダメになって布切れでふんどしを作ったのだろう。
林田が海に入った。平泳ぎで沖に向かって泳いでいる。紘一も平泳ぎで後を追った。林田は足がつくかつかないかのところで止まった。
「君、私が家に帰りたいと思わないかと訊いて来たね」
「ええ。この島では不便でしょう。一年は暮らせたかもしれませんが一生は無理ですよ」
「帰りたくないと言ったら嘘になる。でも、私はね、猫魈に会ってしまったからね。妖怪になりつつあるんだよ。その証拠に爪とぎをしてしまうんだ」
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