出会いのようなもの

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 心に響く声だった。  少し低くて、優しく寄り添ってくれる様な、包み込まれるような―。  私の視線の先では、朗読愛好会の人たちが、日本の名著の朗読をしていた。  月に1回、空き教室を使った朗読会。  それは、部活のために美術室に向かう道中で必ず通るその教室で行われていた。  そして私は気がつけば、その声に耳が、心が奪われていた。  美術部はその時に、特に参加するものがなければ、絵に描くものは自由だった。  だから私は、その時の感情を絵にしようと思った。  奪われ、揺さぶられた感情は、言葉で表現するよりも絵にした方が伝わると思った。  書きながら私は、色んなことを想像する。  あの人は誰なんだろう、なんで朗読をするのだろう、どうしてこんなに感動するのだろう。  勢いで書き上げた絵をみて、他の部員から、誰からともなく拍手が溢れた。  そこでふと我に返り、みんなが来ていたことを知り、同時になんだか気恥ずかしくなる。  「それ誰なんですか?」  後輩から聞かれるが、私は答えに困る。  「朗読愛好会の人…」  「知り合いですか?」  「いや・・・」  冷静に考えれば、なぜ私は知り合いでもない人の絵を書き上げてしまったのか分からなかった。  ただ描きたいという衝動と、書かなければいけない、という使命感のようなものだったのかもしれない。
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