出会いのようなもの

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 この間も書いたじゃん  1人呟きながらも、無意識に手は動き始めていた。  大きなキャンバスにラフ画を描き、そこから全体の輪郭を作りながら、一箇所一箇所を丁寧に詰めていく。  段々と、その姿を見せていく過程が楽しい。  椅子に腰かけ伏し目がちに、文庫本を持たせて―この間もそうだったし、変えてみようかな。  あぁ、想像だけじゃなくて、実際に見ながら書いてみたいな。  『すごい』  そんな折、不意に聞こえた声に、思わずビクッとしてしまう。  振り向くと"あの人"がいた。  「ごめんなさい、扉空いてたので勝手に入っちゃいました。見たことある方だなと思ったんですけど、すごい集中されてたから、黙っちゃって見ちゃいました」  「あ、はい」  折角色々話してくれているのに、えっと、あの、と次の言葉が出てきてくれない。  目の前に、今まで絵にかいていた人がいるということに、思考がまだ追いついていなかった。  「いつも、見に来てくださってましたよね」  一瞬、なんのことが分からなかったけど、直ぐに気づいた。  「朗読会、ですか?」  「そうです!いつも窓から聴いてくださってますよね。ありがとうございます」  気づかれてたのか、と恥ずかしくなる。
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