出会いのようなもの

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 「五十幡(いそばた)あいかです。漢字は葵に香る、で葵香です」  初めてじゃなかなか読めないですよね、と笑っている。  一旦筆を止めて、適当な椅子に2人で座った。まだ他の部員が来てないから、ちょっとゆっくりお話しようということになった。  「私は山下ゆずはです。えっと」  どう説明したら良いだろう。いいか書いちゃおう。近くにあった紙に漢字で書いた。  「果物の柚に、葉っぱで、柚葉です」  「へぇー、かわいい名前」  名前を見て、すぐそう言われた。  そんなこと言われたの初めてだったから、照れくさくなって、顔の横の髪の毛先をクルクルした。  「五十幡さんて、今何年ですか?」  「私は3年生です。山下さんは?」  「私もなんです」  後輩じゃなくてホッとした気持ちもあり、同級生にこんな人がいるなんて、という驚きもあったりした。  「あの」  どちらからともなく口を開いた時に、外からガヤガヤと話し声が聞こえた気がした。  「あ、私そろそろ行きますね」  五十幡さんが立ち上がり、声のした方と反対側の扉に向かっていく。  「あ」  立ち止まって振り返ると、  「朗読会、また来てくださいね」  と手を振って去っていった。  手を振り返した私は、五十幡さんが見えなくなったあとも、その方をしばらく見つめていた。
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