15人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
康介は玉の汗を浮かべ、全身をかたくこわばらせ、堪えるように歯を食いしばっている。
混乱の極地にいるのだろう。
(わかる。あたしもそうだった……)
自分と別種の異星人としか思えなかった男子と、生まれて初めて共感できたように思えた。
唯は康介の手を離すと、今度は肩を突いた。康介はすとんと尻もちをつく。腰が抜けたような座り方だった。
改めて、康介を上から見下ろす。
筋肉のつきはじめた伸びやかな手足。ださいランニングシャツからのぞくきれいな鎖骨。
汚らしい、不格好と思っていたその体に、思わず見惚れた。
これは少女の感覚だ。彼女が美しいと思っているから、そう感じるのだ。
少女は康介も欲しがっている。ひとつになりたがっている。
それが願いなら――かなえてあげねばならない。彼女の願いは唯の願いでもあるのだから。
唯は、板の間に投げ出されている脚に跨った。
さっきまで川に浸かっていた脚だと頭によぎったが、もう、へいちゃらだった。少女は微生物ごときに動揺なんてしないのだ。
「大丈夫、怖くないから……」
もはや自分の声なのか少女の声なのかわからなくなっていた。
康介の喉仏がごくりと嚥下する。上目遣いに見上げる顔には、緊張をともなう恐れと不安の中に、期待があった。
自分も同じ顔をしていただろう。
唯は、少女と康介、どちらの気持ちも味わっていた。
これから、あたしたちは混じり合い、溶け合い、ひとつになる。――なんて素敵なんだろう。
唯は陶然と微笑んだ。うっとりと満ち足りた気持ちでランニングシャツをたくし上げ、その薄いお腹に手を当てた。
了
最初のコメントを投稿しよう!