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 康介は玉の汗を浮かべ、全身をかたくこわばらせ、堪えるように歯を食いしばっている。  混乱の極地にいるのだろう。 (わかる。あたしもそうだった……)  自分と別種の異星人としか思えなかった男子と、生まれて初めて共感できたように思えた。  唯は康介の手を離すと、今度は肩を突いた。康介はすとんと尻もちをつく。腰が抜けたような座り方だった。  改めて、康介を上から見下ろす。  筋肉のつきはじめた伸びやかな手足。ださいランニングシャツからのぞくきれいな鎖骨。  汚らしい、不格好と思っていたその体に、思わず見惚(みと)れた。  これは少女の感覚だ。彼女が美しいと思っているから、そう感じるのだ。  少女は康介も欲しがっている。ひとつになりたがっている。  それが願いなら――かなえてあげねばならない。彼女の願いは唯の願いでもあるのだから。  唯は、板の間に投げ出されている脚に跨った。  さっきまで川に浸かっていた脚だと頭によぎったが、もう、へいちゃらだった。少女は微生物ごときに動揺なんてしないのだ。 「大丈夫、怖くないから……」  もはや自分の声なのか少女の声なのかわからなくなっていた。  康介の喉仏がごくりと嚥下する。上目遣いに見上げる顔には、緊張をともなう恐れと不安の中に、期待があった。  自分も(おんな)じ顔をしていただろう。  唯は、少女と康介、どちらの気持ちも味わっていた。  これから、あたしたちは混じり合い、溶け合い、ひとつになる。――なんて素敵なんだろう。  唯は陶然と微笑んだ。うっとりと満ち足りた気持ちでランニングシャツをたくし上げ、その薄いお腹に手を当てた。    了
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