38人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
今夜もコギトは暗い部屋の窓辺で一人、星を見ていた。
いや、電気は灯っている。だが、何度まばたきしても部屋にはママがいない。今日は彼の六つの誕生日だと言うのに。
だからお部屋は何だか暗いのだ。
昨日も一昨日も暗かったけど、男の子だから平気なんだ。
「お月さま、何食べてるのかなあ……」
お腹がすいた。ポツリと呟くと、右手に握ったスマホが返事をする。
『コギト、それは昔流行ったラーメンのテレビCMのセリフだよっ』
「そうなの?さすがエルゴ、何でも知ってるね。
じゃあお月さまはラーメンが好きなの?」
『お月さまは好き嫌いなんてしないよっ、コギトもトマト食べなきゃねっ』
コギトはエルゴが大好きだ。
赤くてふわふわの長い髪に猫耳を付けた、不思議な魔法を使う女の子。どんなコスプレも良く似合う。
彼女はいつもそばにいてくれる、スマホアプリのおしゃべりな人工知能……
いや。スマホに住んでいる大切な友達だ。
元々、漫画やアニメから子供向けの服やおもちゃ、各種ポスター、地方の名産品とコラボしたキーホルダー、果てはアダルトな路線に至るまであらゆる事に使用され、仕事を選ばないキャラと言われていたエルゴ。
AIを搭載され、歌って踊っておしゃべりが出来る様になった今では、知らぬ者はいない国民的バーチャルアイドルである。
コギトのスマホの画面には、小さく小さく『C・エルゴプロダクト』と表示されている。
この文字のある所、どこにでもエルゴは働いているのだ。
「それにしてもさあ。
……パパもママもまた仲良くなって、一緒に帰って来たらいいのになあ」
最初のコメントを投稿しよう!