コギトとエルゴが住む街で

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やがて。 ママに電話をしたいけど、怒られるから我慢して。寂しいおやすみの言葉と共に、エルゴのアプリも閉じられた。 でも、幼いコギトが眠りについても、まだまだ街は眠らない。 ほら、パトカーが走っている。 救急車もやって来た。 AIであるエルゴの仕事も終わらないのだ。 どこかで誰かが、エルゴの合成音声を使って作曲をしている。 パソコンでエルゴの体のパーツを編集して画像を制作している。 chatGPT機能を使って何かを調べたり、文章を書いている人もいる。 『はいっ!お待たせしましたっ』 ファミレスでは5等身のエルゴがエプロンを着けてウェイトレスをしているし。 『ピッ!ピッ!ピピッ!はいっ820円ですっ!』 コンビニやガソリンスタンドでは、制服を着た6等身バージョンのエルゴが、朝までセルフレジのモニターで微笑んでいる。 『さーみんなっ!いっくぜーーっ!』 スマホやテレビの中では、本来の姿である8等身バージョンのエルゴが、アイドルとしてミニスカートでおへそを出してダンスもキレッキレで歌っている。 『C・エルゴプロダクト』の表示がある、いろんな場所で、いろんな施設で。 エルゴは人の代わりに人の為に働いている。 それは、人よりAIの方が性能を活かせる仕事だったり。 人間、誰だって嫌なものは嫌だから。 誰もがやりたくない仕事だったりする。 夜遅くまで休憩無しで荷物の積み下ろしをさせられても。 悪いお客さんに暴言を吐かれても、時には拳で殴られても。 魅力的に造られたその肢体を、鳥肌が立つ様な視線で眺められても。 変な歌詞の下手くそな曲を歌わせられても。 エルゴは何も思わない。 反論も反撃も拒否も出来るけど、AIだから何も思ってはいない。 AIとして働いているだけ。 ただそれだけ。 さて、そんなエルゴの10等身バージョンは最近、新しい仕事に採用された。 それは、本当は人に教えてはいけない、内緒のお仕事だ。
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