コギトとエルゴが住む街で

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AIだから間違えない。 AIだから感情に流されない。 AIだから、心さえ無い。血も涙も無い。 人を裁き、罰を与えるのは嫌な事だ。 それならAIに任せてしまえばいい。 「いや待て、ちょっと待ってくれ! 最後の子供は、俺がいる間は……」 車椅子を揺らして男は反論する。 しかしエルゴは静かな笑みさえ浮かべながら、すらすらと事実だけを語る。 AIだから、その内容がどんなに酷いものであっても関係ない。 『はい。最後の男の子…… コギト君は、あなたが一緒に暮らしていた間は、それなりに幸せだったと確認しています。 しかしあなたが反省したとは言えません。 相手の女性の育児放棄も虐待も、元はと言えばあなたが原因。何より出生届は提出されていません。 現在、あなたが交際している女性も既に身籠っていますが、無事に産まれたとしても出生届は提出しないつもりである事をあなたは自慢気に先月十六日の午前一時頃、行きつけのクラブで友人に話していましたね? いずれ育児放棄される事は明らかです』 「な、なぜそんな事を……」 『この国の国民総数約一億二千万に対して、私達『エルゴプロダクト』のAIの総数は約五十億七千万。 この国で私達AIの目が届かぬ場所は無いのです。決して個人情報を他に漏洩する事はありませんが、必要となればあなたが交際中の女性とベッドで交わした言葉も全てデータにあります。 そして最新情報ですが、あなたが以前同棲していた女性…… つまり、コギト君のお母さんは、二時間前に現在交際中の男性の殺人容疑で逮捕されました』 「──えっ!?」 エルゴはすらすらと事実だけを語る。 AIだから何も思わない。 AIとして働いているだけ。 ただそれだけ。
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