① 思い出の酢豚

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 転校一日目。  小学五年生の夏休み明けから、ここ浦砂小学校に転校してきた。  ウチは転勤族だから、毎年の転校なんか慣れたもの。ここで何校目だっけ? もう覚えてないや。 「夏休み気分はもうおしまいです! 明日から授業始まりますからね! 宿題忘れないように!」  ようやく一日目が終わった。  今回は女の先生が担任みたいだ。体育の先生らしく、紺色のジャージを着ている。  名前は……珠子先生だっけ?  若くて元気な珠子先生に、みんながあいさつして帰っていく。  私は、いっこくも早くこの場から立ち去りたかった。  だって、いつも転校初日は、『一緒に帰ろう』とか、『家どこなの』とか興味を持たれて、色んな人に囲まれるから。  目立つのが苦手な私は、下を向きながらそそくさと教室を後にする。  一番目に玄関のくつばこに着いた。お気に入りのスニーカーに履き替えて、外に出る。 「ふぅー、ようやく終わった」  通学路はまだはっきり覚えていない。通り過ぎる信号機の数や、特徴的な看板を目印になんとか帰っていく。  ただでさえ転校一日目で疲れているのに、帰るのにも時間がかかるなんて……。  ――頭を使いながら帰ることに苦しんでいると……不思議な人が。 「あれ、何かあの人……変?」  前から、辺りをキョロキョロしながら歩いてくる女の人が。  すれ違う瞬間に、その違和感に気がつく。  あの人……今、透けて見えたけど?
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