① 思い出の酢豚

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 珠子先生……私の担任の先生か。そして水斗君って……同じクラスだったような。  そうだ、火花 水斗(ひばな みずと)君だ。一番前の席に座っていたはず。  いや、そんなことより、ここって家庭科室だったのか……中から聞こえる話し声に耳をすましていると、私の存在に透けた人間が気づいた。 「あ……」  透けた人間と目が合う。しまったバレてしまった……。  目が合ったことに動揺したのか、透けた人間は大きく口を開けながら小刻みに震え出した。  私、そんなに怪しいものではございませんけど……。  またしてもキョロキョロした後、透けた人間は家庭科室の中に入った。中には人がいるのに。  私も続けて家庭科室に入る。 「家のキッチン使いなさいよ! 勝手にガスコンロ使ったらダメに決まってるでしょ!?」 「だって珠子先生! ウチの店は父さんたちが仕込みで忙しいし、家のキッチンはばあちゃんが使ってるし、ここしかないんだもん!」 「水斗君。いくらあなたが料理の天才小学生だからって、家庭科室を自由に使うのは許しませんよ」  すごいもめてる……そりゃ、小学生が勝手にガスコンロを使ったら、怒られるに決まってるか。  あの水斗君って子、料理の天才小学生って呼ばれてるんだ。  きっとお家が料理屋なんだな……いやいや、それどころじゃなかった! あの透けた人間は?  は! 珠子先生の真後ろに立ってる!? 何をするつもりなの!  私は思わず「ああ!」と声をあげてしまった。  水斗君と珠子先生の視線が集まってくる。 「あら……転校生の阿久津 ヒビコ(あくつ ひびこ)ちゃんじゃない! どうしたの?」 「先生! 後ろ!」
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