① 思い出の酢豚

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 水斗君が家庭科室にある冷蔵庫を開けると、野菜やらお肉やらがびっしりつまっていた。  下手したら私の家の冷蔵庫よりも充実している。  後ろから冷蔵庫をのぞいていると、それに気づいた水斗君が慌てて閉めた。 「勝手に冷蔵庫使ってるの、みんなには内緒な! 珠子先生は大目に見てくれるけど、他のみんなにはバレたくないんだ」 「あ……うん」  水斗君は冷蔵庫から、必要な食材を抱えてキッチンに持ってきた。  ニンジンとピーマン、そして豚肉。  さっき途中まで切っていたタマネギも使うみたいだ。 「えーと、ヒビコだっけ? 手伝ってくれ!」 「え! 私が?」 「そうだよ! 料理は嫌いか?」 「嫌いじゃないけど……あんまりやらないから」  そりゃ、お母さんの手伝いくらいはするけど、まさかここで料理するなんて。  水斗君は私の手を取って、キッチンの前に立たせた。  家庭科室のキッチンは、シンクとガスコンロ、引き出しもコンセントも全部一体型になっている。 「じゃあヒビコは、ニンジンの皮をむいてくれ。これ、ピーラー」 「は、はぁ……」  言われるがまま、ピーラーを使って皮をむいていく。  隣では水斗君が、それ以外の食材を一口大に切っていた。  まな板の上で、タマネギ、ピーマン、豚肉が次々と切られていく。それは大人がやるよりも早いスピードだった。 「遅いなぁー、まだむいてるのかよ。ちょっと貸してみ」
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