① 思い出の酢豚

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 私の持っているニンジンとピーラーをうばいとって、手際よく皮をむいていく。  怒るくらいだったら、最初から自分ですればいいのに。  ちょっと不機嫌な顔になる。 「よし、ニンジンも切り終わった。あとは味付けだな」  私がムスッとしている間に、もう切り終わったの? 何この早さ。  あとは味付けって……そもそも酢豚ってどうやって作るのか。  目にも止まらぬスピードで手を動かす水斗君に、私は圧倒されていた。  棚の中から銀色のボウルを取り出して、豚肉を入れる。 「本当は豚肉を揚げてから炒めた方が良いんだけど、今日は揚げないバージョンで作ろっと」  キッチンに付いている引き出しから、片栗粉と書かれた袋を取り出した。あそこは調味料が入っている引き出しなんだ……。 「まずは豚肉に下味をつけるぞ。醤油と料理酒、これを小さじ一杯ずつ」 「すごい……料理酒も使うのね。片栗粉はいつ使うの?」 「この後さ。味付けした豚肉にまぶしていくんだ」  あれ、気がついたら私も興味津々?  料理って意外と楽しいのね。 「それから……甘酢あんを作らなきゃ」  水斗君はもう一つボウルを取ってきて、醤油、砂糖、ごま油と酢、そして水と片栗粉を適量入れて、スプーンで混ぜていった。  なるほど、これが酢豚のタレなのか。 「ここからが本番だ! 炒めていくぞ!」  フライパンの上にサラダ油を入れて、豚肉から炒めていった。油がはねるようにジュウッと音を立てる。  良い音だ。私もお腹が空いてきた。
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