70人が本棚に入れています
本棚に追加
「揚げ焼きってやつだな! これでもカリカリ感は出るし、かんたんにできるだろ?」
焼くように揚げるってことか……私は苦笑いをしながら「そうだね」と同意した。
豚肉に火が通ったら、野菜も豪快に入れた。
そのタイミングで、水斗君は火を消して冷蔵庫に向かう。
「どうしたの?」
「いや、確か……あったあった! 缶詰のパイナップル! これも入れちゃおう!」
水斗君、パイナップル入れる派なんだ……これも手際よく缶詰のフタを開け、そして水気を切る。
そのままいくつかのパインを、フライパンの中に投入した。
仕上げにフライパンの余分な油をキッチンペーパーで拭き取ってから、作った甘酢あんを加えてとろみがつくまで混ぜ合わせる。
食欲が湧く香りが家庭科室にただよっている。
中華屋さんの香ばしい匂い……私も一口欲しいなぁ。
その時、珠子先生をほったらかしにしているのに気がついた。
イスに座っている珠子先生を見てみると、天井を見つめてボーっとしているみたいだった。
やっぱり、中に透けた人間が入り込んでしまったのかな?
あれはきっと……幽霊か何かなのかもしれない。
「完成! 水斗特製かんたん酢豚! それじゃ珠子先生、召し上がれ!」
平らで真っ白な皿に、野菜がカラフルな熱々の酢豚が盛られていた。
見るからに豚肉がジューシーそうだ。
こっちまでよだれが出てきそう。
透けた人間が入り込んでから静かになった珠子先生が、無言のまま一口を食べた。
最初のコメントを投稿しよう!