① 思い出の酢豚

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「美味しい……」  ずっと無言だったのに、その「美味しい」は力強かった。  よく見てみると、珠子先生の目から涙が流れている。 「珠子先生! オレの料理が天才的に美味いからって、泣くことないだろ! なあ、ヒビコ?」  水斗君が私を見る。  今の珠子先生はやっぱり異常だ。酢豚を食べて泣くなんて。  私はその異変から、何となくわかった。  今話しているのは、珠子先生の意志ではない。あの透けた人間の意志だ。 「水斗君。きっと珠子先生は、幽霊に乗っ取られているわ」  珠子先生の目を見る。珠子先生の死んだような目が、こっちを見る。  うつむいてから、箸で酢豚の中のパイナップルをつかんだ。 「珠子……立派な先生になれたんだね」  パイナップルを見つめた後につぶやく。そしてパイナップルを口にした。  今、珠子って呼び捨てにした……珠子先生の中に入った幽霊は、珠子先生の知り合いなの? 「おいおい、ヒビコどういうことだよ? 幽霊って」 「待って、あとで説明するから。もしかしてこの幽霊、珠子先生の知り合いかも」  珠子先生は箸を置いて、かみしめるように食べる。  そして、不気味な笑みを見せた。 「珠子とは、高校の時の親友なの。高校の時に私が交通事故で死んじゃって、それ以来こんな体になった」 「珠子先生の、高校の時の親友……の、幽霊?」  隣では水斗君が口をポカンと開けて、絶句している。  この状況がまだ理解できていないみたいだ。  私は水斗君を無視して、珠子先生の中の人と話す。
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