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1.包帯男
「ねえねえ、聞いた? 包帯男の話」
「知ってる。二組の前田君のところにも出たんでしょ」
給食が終わった後のお昼休み時間。クラスメイトの女の子たちは、教室のあちこちにかたまっておしゃべりに夢中だった。
「先週は四年生の女の子のところに出たんだって」
「やだー、うちにも来たらどうしよう」
のんびり折り紙をしながら、耳に入ってくる会話を何となく聞いていた私は、となりの机でイラストを描いているすずちゃんにたずねた。
「包帯男って、なんのこと?」
「えー、ひなちゃん知らないの。相変わらずのんびりだね」
おおげさに驚いてみせるすずちゃんに、そうかな、と首をかしげる。
夢咲陽菜子。小学六年生。
自分ではそんなつもりは全然ないのに、周りからはマイペースだとか、のんびりやさんとか言われてしまう。
「あのね、包帯男っていうのは、こーんな」
言いながらすずちゃんはお絵かき用のノートにスラスラとイラストを描き始めた。
全身を包帯でおおわれた、たぶん大人の男の人。あちこち包帯がほどけてたれていて、それが何だか気味が悪い。
「ミイラ男みたいね」
「ああ、そんな感じだよね。で、これが出るんだって」
「出るって、家に?」
「ううん。夢の中」
夢の中と聞いて、あれ、いつもの怪談話とちょっとちがうなと思った。
小学校ではいつだって、何かのこわい話がはやっている。こわい話というのはだいたいパターンが決まってるものだけど、夢にまつわるこわい話って、今まで聞いたことがなかったかもしれない。
「最初にその夢を見たのは、五年生の子のお姉さんだったって。中学生のお姉さんが自分の部屋で一人で寝てると、夢の中に病院が出て来た。行ったこともない病院で、広くてきれいなのに、どこを見ても誰もいない。病室やナースステーションや、診察室や手術室まで見て回ったけど、誰もいないの」
すずちゃんの語りに引きこまれて、お昼休みのざわめきがふっと遠ざかった気がした。背中がザワザワとしてくる。
「ギイッてドアの開く音がして、よかった、誰かいたみたいって、そっちに向かってみると、ゆっくり開いていくドアの向こうに、頭から足の先まで包帯をぐるぐるに巻いた男が立ってたんだって。お姉さんは悲鳴を上げて逃げ出した。廊下を走って階段を下りて、どんどん走っていくけれど、後ろからずっと足音がついてくる。足音はゆっくりなのに、どういうわけか、包帯男はだんだん追いついてくるように見える。病院の外に出るドアはどれも開かなくて、追い詰められたお姉さんは診察室に逃げこむの」
ごくり、とつばを飲みこみながら、話の続きを待つ。
「診察室のかべのすみのうずくまっていると、足音が近づいてくるのがわかる。他の診察室のドアを開ける音と、「ここでもない」ってつぶやく声が聞こえる。お姉さんは口に手を当てて悲鳴を押さえながら、足音が通り過ぎてくれるのを祈っていた。だけどとうとうドアの前で足音が止まり、ドアが横にスライドした」
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