死に至る花の病

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 一人呟く。それ以外で露見するとすれば、それこそ重篤化して、死に至る場合のみだ。死ぬのであれば、それは隆史さんとの永遠の別離であるから、構わないだろう。なにせ、一般的な医療では治癒しない、医師に見せても解決しない奇病の、それも亜種だ。そして、僕自身が医師なのだ。自分の治療は、自分で出来る。だから、他の医師に診せる必要だってない。僕は自分に、そう言い訳した。 「最近、会ってくれないんだな」  その日も隆史さんが来たと聞いたのだが、僕は帰ってもらう事にした。  確かにそう使用人に伝えたのだが、部屋の扉が開いた。驚いて僕は、そちらを見る。  白衣姿の僕は、慌てて絆創膏を蒔いてある指先を、何気ない素振りで背後に隠した。なんとか先程血が止まったところだが、実は今日の昼間も針で指を刺してしまったのだ。 「隆史さん……」 「俺は何か君に嫌われるような事をしたか?」 「……いいえ」  僕は最近では常に僕のそばにいる賢の頭を無意識に撫でた。  賢は僕の体に鼻を押し付けている。 「体調が悪いと聞いたが、元気そうだな」 「……」 「風邪でも引いたのかと最初は心配した。が、十回も連続で断られた以上、余程の重病なのだろうと考えて、無理に上がらせてもらった。その割に、元気そうな姿を見て、安堵はしたが、俺は苛立っている。理由は分かるな?」 「……儀式が滞りますからね」  僕は導出した理由を言葉にしてから、顔を背けた。 「今俺はさらに苛立ったぞ。理由が違う。理由は、水城が俺を避けているからだ」 「それは、儀式が滞るからと同じ意味のはずだ」  僕が避けると、儀式が出来ない。そういう事ではないか。 「茨木兄さんが好きだった貴方としては、早々に式神を増やして儀式のお役目を終えたいんでしょうね」 「――俺と茨木は確かに許婚だった。儀式もしていた。それは否定しない。兄を抱いていた男に抱かれるのが嫌だという事か?」  当然、嫌だ。僕は隆史さんが好きなのだから。兄と隆史さんの事を考えると苦痛だ。きっと隆史さんは、僕に兄を重ねているのだと思う。背格好は似ているから、可能だと僕はその部分は可能だと信じている。だから生理的嫌悪は無いだろうと願っている。  だが――決して、死者に勝つ事は出来ない。僕が、茨木に勝つ事は不可能だ。 「嫌に決まっている」
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