死に至る花の病

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 古来より、同性婚の制度が無かった頃から、陰陽道の家系では、同性同士の儀式的結婚があったそうなのだが――華頂家の人間が結婚する場合は、その山の中の家に、相手が通う形式の関係が築かれていたらしい。理由は、華頂家の式神が、その家の庭に生える桜の大樹であるからだそうだった。  今は新緑の季節であるから、花は散っているが、緑色の瑞々しい若葉が見える。木は動かす事が出来ないため、法的・儀式的な結婚後、二者間の間に『子供』が生まれるまでは、通い婚が続くそうだ。無論、男性同士では子は生まれない。式神同士の間に、子がデキるのだという。僕にはそもそも式神が見えないから、どうすれば子供が生じたと判断できるのかも分からないが、そこは華頂家よりずっと強い力を持つ蘆屋家の隆史さんには分かるようだ。つまり僕は、隆史さんが『良い』というまで、基本的にこの家で、使用人に世話をされながら暮らす事になる。  隆史さんの許可が出れば、僕は二人で暮らす更なる新居に移る事になるが、そうならない限りは、僕はこの山の中の一軒家から出る事は許されない。軽く、軟禁されるに等しい。そしてそれは、許可が出なければ、生涯続くという約束の上での婚姻だ。隆史さんが足を運ばなくなっても、力が弱い側である華頂の人間には、催促する権利も無い。この政略的な婚姻において、華頂家は蘆屋家の強い力を『貰い受ける事』を主とした目的とし、蘆屋家側は、善意でそれに答えてくれただけ、という名目があるようだ。  だから双方、隆史さんの相手は、誰でも良かったというわけだ。ただ……兄を好きだったのだろう隆史さんには、非常に申し訳ない形となったのは、間違いない。なにせ隆史さんと僕は、中学三年生の習い事を最後に、実を言えば、一度も会話すらしていない。婚約指輪も郵送で送られてきた。家族同士の顔合わせも特になかった。結婚式は、来年と言われている。ただし式神を増やす――式神の子を増やす儀式は、早い方が良いからと、式の前ではあるが既に籍は入れたので、これから隆史さんはこの家にやってくるとの事だった。  僕は、兄のためにしつらえられた婚礼衣装や結納品の数々を見た。  豪華な着物などがかけられている。  畳の部屋で、桐箪笥や漆塗りの黒い卓を眺めながら、横の襖を続けてみた。  この向こうには、布団が敷かれた座敷がある。  儀式を行う部屋だ。
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