死に至る花の病

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 式神の子を増やす儀式に置いて、婚姻した二人は体を重ねる。兄と隆史さんも、その儀式の手ほどきを受けていて、何度か練習的に体を重ねた事があるそうだ。  ――だから、儀式の知識が無くても心配は不要だ。  父はそう言った。  だが僕の心はより陰鬱になったものである。  そもそも家族は、僕と兄の体躯がほぼ同じだから、婚礼用品を仕立て直さなくて良い事を喜んだが、これらを着る事を望んでいたはずの兄を想うと、僕は辛い。幸せになるはずだったのは、本当は茨木だ。僕じゃない。  それでも僕は、幼い頃から隆史さん一筋であり、抱かれる事を夢想した事も多い。基本的に、華頂家の人間は、抱かれる側だ。理由は、式神を増やすには、その方が都合が良いかららしい。これは僕にとっては、幸いでもあった。僕は童貞だ。ちなみに男性に対しても用いる単語かは知らないが、処女でもある。誰かと性的な接触を持った事は一度も無い。隆史さんだけが、好きだからだ。ずっと想い続けていて、けれど叶わないと知っていたし、兄の幸せだって願っていたから、僕はその気持ちを封印していた。蓋をしたまま、一人生涯を終えようと誓っていた。だというのに、人生とは分からない。 「水城(みずき)様。蘆屋様がお見えです」  その時名を呼ばれたので、僕は振り返った。使用人が頭を垂れている。隆史さんの到着の知らせに、僕は無表情で頷いた。 「お通ししてくれ。直接こちらへ」 「畏まりました」  僕の言葉に、使用人は頷くと下がっていった。歓待しても良いのだろうが、目的は性交渉だ。それも、隆史さんにとっては本意ではない行為となる。兄を愛していた隆史さんは、背格好以外は似ても似つかない僕を、嫌でも抱かなければならない。好きな相手の死に浸る時間すらなく取り決められた僕との結婚を、果たして彼はどう思っているのだろう。  憂鬱な気持ちになりながら、僕は襖に手をかけた。  布団の傍らには、中身が三分の一ほど減ったローションのボトルと、開封済みのコンドームの箱がある。誰が使ったのかなど、明らかだ。兄と隆史さんである。  いつも愛用している白衣ではなく、迎えるために和装を纏った僕は、大きな布団の隣に正座し、半分ほど開けたままにしておいた襖を眺めていた。薄暗い室内には、雪洞の明かりしかない。 「久しぶりだな、水城」
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