死に至る花の病

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 少しすると、隆史さんが入ってきた。迷いなく中へと入り、襖を閉めた隆史さんは、僕を見下ろしてから、続いて腰を下ろした。スーツ姿だ。背広を脱いでから、ネクタイを緩めつつ、隆史さんは笑顔を浮かべた。 「バタバタしていて会いに来られなかった。本当に申し訳ないな」 「いえ」  僕は無表情を貫く。歓喜している内心を悟られたくなかった。兄の死をまるで喜んでいるかのような自分を、知られたくなかった。  精悍な顔立ちをしている隆史さんは、切れ長の目をしていて、薄い唇もまた形が良い。惹きつけられる造形美をしていて、長身だ。僕よりずっと肩幅も広い。 「儀式の用意は整っております」  僕が告げると、隆史さんは虚をつかれたような顔をした。 「いきなりだな。少し話をしないか? これから俺達は、法的にも配偶者同士となるんだし」 「お気遣いは不要です」  優しい。変わらず、隆史さんは優しい。僕が好きだった隆史さん、そのままだ。でも、隆史さんは兄を愛していた。兄を抱いていた。その現実は、変えられない。 「……そうか」 「はい」 「ならば、遠慮はしないぞ?」 「お願いしているのは、こちらですので。式神を増やす必要があるのは華頂ですから」  僕は式神など見えないが、これは変えられない事実だ。 「俺は据え膳は食べると決めているんだ。機会は決して逃さない」  隆史さんはそう言うと、僕を押し倒した。そして緩く和服の合わせ目を開けると、僕の首の筋を静かに舌でなぞった。初めての感覚に、僕の体は強張り、肩がピクンと跳ねる。  右手で僕の着物を乱し、儀式には邪魔だろうからと脱いでおいた下着に、本来ならば隠されている部分を、隆史さんが撫で上げた。 「っ、っッ」  直接的に陰茎を握りこまれて、僕は唇に力を込めて嬌声を飲み込む。全身が悦んでいたが、それを知られたくない。兄の代わりであっても、抱かれるのが嬉しいというこの感情を、絶対に知られたくない。 「水城は随分と美人になったな」 「っ、そ、そういうのは、言わなくても……ッ」 「昔から、綺麗だとは思っていたんだ」 「ぁ、ァ……」
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